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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
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24・大蜘蛛の乱(5)

何となくは予想ができていた。


この廃工場に連れ込まれた時から。


リーゼントとタイマンをはれと言われた時から。


このような展開は、予想できていた。


例え勝っても、誰に勝っても、何度勝っても、いつまでも続くと予想できていた。


今宵の物語は、龍一が敗北するまで続くであろう。


案の定である。


ジャイアントスパイダーズ内でナンバー・ツーの強さを誇るオールバック平山を撃破したが、次の相手が名乗りを上げた。


ジャイアントスパイダーズのリーダー、千葉寺カヲルである。


ソファーから立ち上がる千葉寺カヲル。


大きかった。


見た目に身長は190㎝を越える。


引き締まった筋肉に、着ている革ジャンが破けそうであった。


革ジャンの上からでも筋肉の形がよく分かる。


腕の太さは月美のウエストより太く、太股の筋肉は龍一の腰回りと同じ太さ。


胸板は砲弾チョッキを着込んでいるかのように分厚い。


上半身は逆三角形。


首の太さと頭のサイズが一緒である。


「次は、僕とやろうよ」


声変わりしていないのだろうか、千葉寺カヲルの声は、まるでボーイッシュな女性声優のように透き通っていた。美しい。


前に歩み出る姿は仁王の肉体に羅刹の顔を持ち合わせていた。


人を超越した魔人に見えたが、声だけが無垢な天使である。


「お願いだよ。僕とやろうよ」


懇願していた。


長い黒髪が筋肉に固まった尻の上辺りで揺れている。


サングラスを掛けていて視線は分からないが、十分なまでの威圧を全身から放出していた。


龍一はどうにでもなれと諦めていたが、納得がいかない月美が食って掛かる。


「ちょっと、約束が違うじゃない。タイマンが終わったら帰してくれるって言ったじゃないの!」


キンキン声で抗議を怒鳴ると、男たちはそっぽを向いて視線を逸らす。


なんともバツが悪そうな顔をしていた。


だが、ノシノシと歩きながら千葉寺カヲルが反論する。


「うん、約束した。だから、これは改めて僕からの挑戦状だ。さっきのタイマンとは関係ない。別件だよ」


巨体が龍一の前に立つ。


「改めて言う。僕の挑戦を受けてくれ。キミと戦ってみたい」


千葉寺カヲルが掛けていたサングラスをはずして素顔を晒す。


眉毛がない。しかし切れ長の瞳には、澄んだ輝きが光っていた。


眉毛をしっかり描けば、かなりの美形である。


「じょ……、冗談ですよね……」


困りきった顔で怯える龍一が述べたが、千葉寺カヲルは首を横に振って言い返す。


「冗談じゃあないよ。僕は本気でお願いしているんだ。もちろん断るも自由。でも、断れば――」


意味深な言い方で、語尾を切る。


口調の中に脅しが分かり易く混ざっていた。緩い笑みに威嚇が映る。


断れない――。


「付き合って、くれるよね?」


訊くと同時に全身の筋肉を硬直させて膨らませる千葉寺カオル。


膨らんだ全身から殺気が溢れ出る。


断れば殺すと筋肉の盛り上がりが告げていた。


「やります……。ごめんなさい……」


震えた声で言う龍一。


だが、次の瞬間、龍一の口調が変わった。


「でも、これを最後にしてもらいます」


龍一が凄んでいた。


表情が凛と引き締まり声に勇気が宿っている。


僅か一秒の刹那で別人に変わっていた。


「え……」


思わずキョトンとしてしまう千葉寺カヲル。


大蜘蛛たちも驚きに固まる。


龍一が千葉寺カヲルの気迫を押し返す。


「あれは……」


窓から覗き見ていた三日月堂が、戸惑いを声に含めて言葉を繋げる。


「あれは、リュウジ君、なのか?」


「へ?」


何を言い出したのかと花巻が首を傾げた。


花巻と秋穂の二人は『リュウジ』の話を知らない。


「なんだあいつ……顔、変わったぞ」


「なんだか急に、男らしくなりやがった……」


外野がヒソヒソと話す。


まるで別人格が表れたようだった。


突然見せた龍一の表情は、今までの物とは違いすぎたからだ。


「戦います、貴方と。でも、これを最後にお願いします。勝っても負けても、僕たちは帰りますから」


キョトンとしていた千葉寺カヲルが表情を引き締め直して返事をした。


「うん、分かったよ」


千葉寺カヲルの回答を聞いてから深呼吸をする龍一。自信が湧いたのである。


きっと勝てると――。


無事に帰れると――。


理由は、超能力。


その能力は、自動戦闘。


自分の意思に関わらず、完璧なまでの攻防を繰り広げられる。


達人並みの防御術。


達人並みの攻撃術。


これがあれば次も勝てると踏んでいた。


きっと、眼前の巨人にも、この超能力が有効だと確信していた。


オールバック平山の狂拳はスピードもテクニックも超一流だった。


それを容易くあしらったのだ。


自分に目覚めた超能力は、喧嘩に負けるような代物ではない。


だから強気に出れたのだ。


絶対に勝てる。


もう、今までの自分とは違う。


そう考えていた。


「さぁ、決着をつけましょう」


言ったのは龍一だった。


自分は無敵だと思い始めていた。




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