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変態超能力をプレゼントDX  作者: ヒィッツカラルド
13/61

13・秘密結社異能者会

龍一がジャイアントスパイダーズの一員を殴り倒した晩の話である。


場所は素度夢駅前通り、三日月堂ビル。


そこは五階建てのビルである。


一階二階は、すべて本屋だが三階テナントには喫茶店と美容院が入っている。


四階五階は会社事務所が幾つか入っていた。


――が、五階のテナントに入っていた会社は、先週の初めに潰れてしまった。


不況の煽りは間違いなく素度夢町市にも押し寄せている。


潰れた会社の荷物はリサイクルショップが一昨日取りに来た。


殆どが借金のかたに取られたのである。


それでも会議室に置かれた大きなテーブルと数個の椅子が残されていた。


一階の本屋『三日月堂書房』の店長であり、ビルのオーナーの息子が、この階を借り受けたからである。


会議用の長テーブルと数個の椅子だけはリサイクルショップから買い取り残して貰ったのだ。


今夜ここで秘密結社を名乗る一団が定例会議を開こうとしていた。


そして、ビルに入って行く二人組の男女。


「ここが新しい本部なんだってさ~」


「三日月堂のオヤジのビルだろ。こんな場所が空いてるんだったらよ~、さっさと用意しろって感じだぜぇ」


狭苦しいエレベーターで五階を目指す男女の二人組。


昼間、龍一を尾行していたチンピラ風の男とホステス風の女である。


チンピラ風の男は、髪の毛を茶髪に染め上げている。


衣類は、ぶかぶかの白いジャージをだらしなく着込み、首には金のチェーンネックレスをかけていた。


履いているのは安物のサンダルである。


顎には無精髭を蓄え、顔つきは極道でもなく堅気でもないような、中途半端な気合いが窺えた。


同じエレベーターに乗るホステス風の女もチンピラ風の男と釣り合いが取れていた。


金髪に近い茶髪は背中まで長く、パーマが掛かりボリュームを増している。


化粧は濃いが、なんとも目が眠たそうであった。


そこそこ値段が張りそうな上着の下には水商売風の誘惑的な服を着ており、パツパツのタイトミニから伸び出たムチムチの足には悩ましげな黒い網タイツを穿いている。


顔立ちは綺麗で、異性の性欲を誘う美しさが悩ましい。


それも、彼女が長年積み上げてきた化粧技術の賜物ともいえそうだった。


並んで立つ男女。


女はかなり高いハイヒールを履いているが、それでも男のほうが背は高い。


二人の乗ったエレベーターが五階に到着すると扉が開く。


かつて企業が動いていた部屋を見回す二人。


そこは何もなかった。


ただ広い。


二人の目には、寂しくも広いテナントフロアーと、窓の向こうの景色だけが目に入る。


「誰もいねーじゃん」


チンピラ風の男が茶髪頭を掻きながら呟くと、奥の扉が開き、おかっぱの少女が顔を出して「こっちですよ」と言いながら手招く。


「あ、桜ちゃん」


二人は招かれるままに隣の部屋に入った。


「ちゅ~す」


チンピラ風の男がチャライ挨拶をしながら片手を翳した。


ホステス風の女は「どうもぉ」と小さく挨拶を述べてから部屋に入る。


隣の部屋は会議室のようだった。


大きなテーブル席には、数人の男女が腰掛ながら二人を待っていた。


各自がそれぞれ挨拶を返す。


二人を呼び寄せた少女も元いた席に戻って腰掛けた。


その少女は、何故か巫女服を着ていたが、その理由を二人も知っていた。


家が神社を営んでいるらしい。


この近所の神社である。


「やあ、二人ともご苦労だったね」


一番奥の席に座る優男が軟らかい笑みで二人を迎える。


座る席からしてリーダー格だろう。


その右列に、不健康そうな顔立ちの青年が座っていた。


否、もう中年に差し掛かっている感じがする。


三十歳が近そうな男である。


首も腕も細く、顔色も悪い。


その隣には五十歳ぐらいだろうか、四角い顔に黒縁眼鏡、白髪混じりの七三分け、値のはりそうなスーツを着た男性が座っていた。


一流企業の重役を連想させる堅物加減が窺える。


更に隣は、おっとりとした女性であった。


長い髪に薄化粧。それでいて男性ならば全員が美人と認識できる美しさを備えていた。


母性にあふれた容姿に豊満な胸は、異性の性欲よりも、結婚願望をかきたてるタイプの女性であった。


落ち着いているが、まだ若そうである。


今紹介した三人の向かいに二人の女性が座っている。


一人は先程二人を部屋に呼び入れたおかっぱで巫女服の少女である。


中学生一年生ぐらいだろうか、幼さが残るが可愛らしく大人しそうだ。


もう一人の女性は、凛とした顔立ちから真面目そうなイメージが強く伝わって来る。


着ているのもパリッとしたレディーススーツである。


背中まである黒髪をゴムで縛っていた。


「好きな席に座ってくれたまえ」


一番奥の優男が言った。


いかにも自分が、この場を仕切っているような口調である。


チンピラ風の男は何も言わずに歩くと、穏やかに微笑む豊満な胸を有した女性のほうに進んだ。


隣の空き席を狙っている様子である。


「あんたは、こっち」


「うげ……」


ホステス風の女がチンピラ風の男の首根っこを掴まえて反対側の席に引きずって行く。


彼女は巫女服少女の隣に座るとチンピラ風の男を無理矢理にも隣へと座らせた。


「ちぇ……」


ふてくされたチンピラ風の男は頬杖をついてそっぽを向く。


「それでは全員集まったことだし、定例会議を開始します」


辺りをきょろきょろ見回してからホステス風の女が問う。


「秋穂と鯨波くんは?」


質問には巨乳の女性が答えた。


「まだ、お店の片付けをしてるわぁ。最後のお客さんが閉店まで粘っててね。いつもより閉店作業が遅れているのよ」


不健康そうな男が続いて言った。


「まあ、あの二人は異能社会の活動に熱心じゃないから、後で会議の内容を報告する程度でいいんじゃないかな」


優男が「そうですね、では会議を始めましょう」と述べる。


優男が言うと、そっぽを向いていたチンピラ風の男が、機嫌を回復させたのか訊く。


「三日月堂~、それにしてもいい場所をゲットしたじゃねえか」


ホステス風の女が続く。


「そうそう、今まで定例会議を開くのがファミレスとかだったから、正直なところ恥ずかしかったんだよねぇ」


「食事も飲み物も出るから、いいかなーと思ってたんだけど、夏子さんに指摘されて、急遽ここを用意したしだいで。しばらくは、ここが使えるから」


優男が苦笑いを作りながら頭を掻いて言う。


「なんだぁ、夏姉もそう思ってたんだ、ファミレス会議を──」


「話す内容が内容だからね。他の客が怪しそうにチラチラみているのよ。恥ずかしったらありゃしないわ」


スーツの女が困ったような顔で答えた。


それに続いて今度は不健康そうな青年が話し出す。


「僕はあんな時以外は、ちゃんとした食べ物を食べないから、よかったんですが……」


向かいに座る痩せた男を見ながら哀れそうに言う女刑事・夏子。


「あんた普段何食べてるの……。ファミレスのご飯がまともなご飯だっていうの……。うちの男性刑事たちと一緒ね」


彼女は健康に厳しい。


バランスの良い食事を自分で作り、適度な運動も欠かさない。


ナチュラルな健康マニアである。


「普段は仕事で、家に閉じこもっていますからね。食事の殆どがカップ麺ばかりになってしまって……」


「売れない小説家も大変ねぇ」


ホステス風の女が哀れそうに言う。


本当のところは気に留めてないのが口調から察しられた。


彼の仕事は小説家であるが、売れてない。


まったく売れてない。


最近まではバイトで食いつないでいたぐらいである。


「そんなことは、どうでもいい。会議を始めんか!」


厳つい中年男性が、黒縁眼鏡を中指で上げながら強めの口調で言った。


真面目そうな人格が一言でわかる。


そのあとは腕を組んだまま一言も発しない。


「では、会議を始めます。先ずは報告をお願いします」


三日月堂が述べるとチンピラ風の男が我先に手を上げた。


手柄をあげたことを子供の如くアピールする。


「はーい、はいはいはーーい!」


「はい、では、花巻君」


チンピラ風の男は席を立ち自慢げに語り出す。


「昨日頼まれた蓬松高校の件だがよ、さっそくかたづいたぜ」


親指を立てて前に突き出す。満面の笑みだ。


「かたづいたって?」


女刑事が訊き直す。


「例のガキを見つけたってことよ」


「お~」と、皆から声が上がる。


それから不健康そうな小説家青年が席を立ち、後ろにあったホワイトボードに写真を張り始めた。


巫女服の少女『桃垣根 桜』が念写した画像をパソコンで引き伸ばしてプリントアウトした物だ。


写真は四枚。


男女の四人の顔写真が写っている。


一人は『政所 龍一』であるが、その名を殆どの者がまだ知らない。


他に三枚――。


一人はショートヘアーの少女。高校生ぐらいに窺える。


もう一人は三十歳ぐらいの男性である。


しかし、最後の一枚だけ見た目が可笑しい。


写っているのは女性のようだが、長い黒髪を靡かせ顔を隠している。


咄嗟に隠したような不自然な写りかたであった。


「例のガキって、この人ですよね」


ホワイトボードに写真を貼りつけてから小説家の青年が問う。


「おうよ、名前も分かったし家も分かったぜ」


「家はやっぱり、念写にあった家でしたか?」


三日月堂が訊くと花巻が「そうだったぜ」と言いながら席に腰を戻す。


「家の標識見たらよ『政所』って書いてあったぜ。名前は多分『龍一』だろうよ。他に『源治』『つかさ』『虎子』って載ってたぜ。最後に名前があったから、あの家の子供なんだろうよ」


チャラくても、そのぐらいは推測できるようだ。


「花巻君、おみごと。あんたもたまにはやるじゃない」


女刑事の『十勝 夏子』が花巻を褒めるが、随分と上から目線だった。


いつものことなのか、花巻は気にしていない様子である。


それどころか、もっと褒めろと言いたげなドヤ顔を見せていた。


その間も小説家の青年が、ホワイトボードに複数の写真を貼っていった。


すべて巫女服の桜が念写したものだ。


「じゃあ、コンタクトは夏子さんに任せます」


三日月堂の指示に女刑事が頷く。


「これで、今月に成って異能者に成った人のうち、二人は居場所が分かりましたねぇ」


可愛らしい笑みで桜が言った。


それに続いて小説家が女刑事に質問した。


「夏子さん。この人は、どうなりました? コンタクトを取ったのでしょ?」


写真の一枚を指差す。


龍一の写真の隣に貼られた三十歳ぐらいの男性写真である。


「彼は、超能力を拒否したわ」


サラリと女刑事である十勝夏子が言った。


「へぇ~、つまんねー奴だな~」


パイプ椅子に仰け反りながら花巻が言葉をもらす。


花巻を無視して三日月堂が「キーロックを望んだのだね」と言った。


「どんな能力だったの、その人は?」


柔らかく微笑みながら巨乳の女性が訊いてくると、十勝夏子は遠慮なく答えた。


「詰まらない超能力よ。周囲の温度を測らなくても、寸分狂いなく悟れる能力だったわ。それを引き換えに与えられた新たなる趣味ってやつが、なんともね……」


「変態的だったのね……」


巨乳の女性が、頬を片手で押さえながら可愛そうにと同情を露にする。


「それで、向こうさんも望んだから、キーロックしてきたわ」


「それはご苦労さまです」


労う三日月堂が笑顔で言うなか、小説家がホワイトボードから話題に上がっていた男の写真をすべてはずし始めた。


はずした写真を鞄に仕舞う。


今度はケバイ女が眠たそうな眼差しで十勝夏子に訊く。


「夏姉、先月の二人は、どうなったのよ?」


答えたのは三日月堂だった。


「あれれ、報告しなかったっけ。二人とも接触積みだよ。先月は、爺さんも婆さんも、一人ずつしか異能者を産まなかったしね。直ぐ見つけられたんだよ」


「あらぁ、そうだったのぉ」


「男のほうは、キーロックを選んだよ。妻子がいたから、異能者同士にしか恋愛感情が持てないのが問題だったっぽいよ。予想以上に奥さんへの愛情が薄れたことに、焦りを覚えたらしい」


「あー、やっぱり結婚してる人だと、夫婦揃って異能者にならないと、日常生活がきついのね~」


「仮面夫婦は、大変ね~」


ホステス風の女に続いて巨乳の女が軟らかい笑顔で言った。


二人とも恋愛話には、良く食いついて来る。


「じゃあ、先月爺さんが作った女の異能者は、どうなったのさ?」


「何度か会ったんだけどね。私が刑事だから、話がこじれちゃってさ。いまだ交渉中よ。まあ、極端に悪いことはしないと思うんだけど……、若くて血気盛んなのが危うくてね。でも、なんとか説得するわ」


三日月堂が「いつも済みません」と、十勝夏子に頭を軽く下げる。


「まあ、あの子は後回しにして、先にその子に接触するわ」


そう言いながら写真の少年に視線を合わせる。


写真の下には『政所 龍一』と名前が書かれ、いつの間にか住所まで書かれていた。


花巻が紙切れに住所を書いて、小説家に先程渡していたのだ。


「とりあえず今月は、あと二名ですね」


桜が明るく言うと、三日月堂が表情を厳しくして話を繋げた。


「ショートヘアーの女の子は、普通の学生に見えるから問題はないだろう。悪さを仕出かすタイプには見えないからね」


確かに明るい笑みで写っている。


どんな超能力を得たとしても、悪党に凶変するような子には見えなかった。


とても健全な笑みが、皆にそう思わせる。


ホワイトボードを眺める小説家が、声を厳しくして次なる意見を述べた。


「問題は、こっちの髪で顔を隠す女性でしょうか……」


花巻が黙って頷く。


ホワイトボードに貼られた写真の中に、同じような写真がある。


長い黒髪で顔を隠した女性の写真である。


しかも、複数枚、似たような写真が貼られていた。


「何度念写してもこうなんです。私の念写に気付いて顔を隠すんです」


「桜ちゃんの念写、写される少し前から、なんとなく見られている感覚で分かるしね~。あ、電池切れた」


ホステス風の女がこぼした最後の一言は、全員に流され無視される。


少し間を置いてから三日月堂が話し出す。


「怪しげなのは分かるが、もう一人の少年が気になる。やはり彼を先行したほうが……。闇の念写がね、とても嫌な感じがするのですよ」


「そのお兄ちゃんの場合、そのあとの念写は全部それなんですよ」


「全部、闇しか写らない……か」


小説家が受け取っていた画像を携帯電話でチェックする。


しかし、桜から改めて貰ったものはすべてが真っ黒だった。


闇しか写っていない。


「花巻君、秋穂さん、暫くの間、その少年に貼りついていて貰えませんか」


花巻とほぼ同時に、秋穂と呼ばれたホステス風の女も「いいけど」と素っ気なく了解する。


「夏子さんを接触させる前に、どのような人間か調べたいです。超能力が何かも知ってからのほうが、安全かもしれません」


「三日月堂、今回は慎重だなぁ」


「当然ですよ、花巻君。今回は今までとパターンが違います。いきなり夏子さんを近づけるのは危険かもしれませんしね。夏子さんの能力は、我々の目的には欠かせませんから」


自分の超能力に触れられた十勝夏子が話に加わる。


「持ち上げすぎよ。私の能力はおまけね。確かにないよりはあったほうが、みんなのためになるけどさ」


謙遜している彼女に三日月堂が「いいえ、世界のためになりますよ」と微笑みかけた。


照れて頬をピンクに染めた十勝夏子が三日月堂から視線を外す。


「それはそうとよ。そろそろ今月分の生活費、振り込んでくれねーか?」


空気を無視した花巻が、そう言いながら親指と人差し指で輪を作って見せる。


顔が下品に微笑んでいた。お金を要求しているのだ。


「わかりました、近日中に原稿を三日月堂さんに渡しときますよ。あはは……、換金お願いしますね」


答えたのは売れない小説家だった。


三日月堂が「はい、了解しました」と二人に返す。


「では、そろそろ夜も更けてきた、中学生もいるのだから解散の時間だろう」


渋い声で言ったのは、堅物そうな中年男性だった。


会議中は腕を組んだまま一言も発しなかったが、最後の最後で発した言葉には威厳が感じられた。


そして、席を一番に立つ中年男性。


ビシッと決めたスーツ姿だったが、中年男性の下半身はすっぽんぽんであった。


男らしくズリ剥けたナニが揺れている。


何も穿いていない。


それでありながら微塵も恥じていない。


堂々と胸を張っていた。


流石の光景に、女刑事と巫女服の少女が視線を逸らすが騒ぎ出す素振りはなかった。


知っていたのだろう。


「朝富士さん、そのまま帰るのですか……?」


「馬鹿を言え、三日月堂!」


朝富士と呼ばれた厳つきも堅物そうな中年は、頑固そうに反論する。


「私は変態だが、モラルを心得ている。地位も名誉も家族もいる変態だ。こうして下半身を開放して心置きなく露出するのは、キミらのような理解ある人物たちの前だけだ。一般市民の前では、恥ずかしくはないが絶対に行なわない。何が犯罪に当たるかぐらい心得ている。詰まらん質問を控えてくれたまえ!」


なんとも堂々とした発言だったが、皆が苦笑っていた。


「心得ているなら、早くズボン穿いて帰れよ……」


花巻の言葉は、ごもっともである。


「そうだな。女性人の前だが失礼してズボンを穿かせてもらうよ」


そう述べてテーブルの下に置かれたズボンとパンツを穿き始める。


これを最後に、今宵の秘密結社会議が終了となった。


皆が次々と部屋を出て行った。



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