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嘘吐きと花  作者: 茉莉美清華
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アネモネ5

鳴海要視点「アネモネ」最終話です。

「雪奈、帰ろう」


ショートホームルームが終わると、私は真っ先に雪奈へ声を掛ける。


「えー? お姫様はどうしたよ。イケメン王子」


「葵は部活。ていうか、そのネタまだ引きずるの?」


 名前を出したら、葵がこちらを向いてきたので手を振った。彼は綺麗な笑顔を浮かべ、手を振り返してくれる。部活仲間の男子生徒に肩を突かれながら、そのまま教室を出て行った。


「ヒュー、お熱いねぇ。嫉妬しちゃうぞ」


 雪奈は男子生徒が葵にしたのと同じように、私の肩を突いてくる。


「……やめてよね。そういうの」


 私から帰ろうと誘っておいて何だが、雪奈の発言と行動にイラつきを覚えたので教室を出ようと踏み出した。


「え? 待ってよ、鳴海さん!!」


 後ろから雪奈の声がする。私の後を追う姿は、きっとカルガモのようなのだろう。


「悪かったって。からかい過ぎたよ」


 雪奈の謝罪の言葉を聞いても、イラつきは収まらない。けれど、雪奈の前では爪を噛むことに抵抗を覚えた。


「……ホントのこと言うとさ、ちょっと悔しかったんだ」


 昇降口に着いた途端、雪奈が発した意味深な言葉に思わず振り返る。すると雪奈は満足そうににんまりと笑った。


「やっとこっち見たー」


「うざいんだけど」


 あくまで静かに睨め付けると、雪奈は力なく笑う。


「……ごめんね。でも、悔しかったのはホントだから。鳴海さん、さゆの言う通り友達多くて、モテモテで。おまけに彼氏までつくっちゃって。どんどん、あたしに構う時間なくなってさ」


 雪奈らしからぬ発言に、表情筋が緩む。雪奈はこんなことを言う子ではない。中谷雪奈は、誰とでも仲良くなれて、誰が相手でも良くて。

 私はこんな雪奈を知らない。

 私が冗談を冗談と受け止めず、幼稚な態度をとっただけなのに。雪奈にこんな顔をさせたくないのに。雪奈は悪くないのに。

 

「水無月くんに嫉妬してたの。ごめん。あたし、面倒臭いよね」


 私の方がもっと嫉妬深い。私の方がもっと面倒臭い。

 雪奈の言葉に、ただ俯くしかなかった。

 

 どうして私は女に生まれてしまったのだろう。どうして雪奈はこんなにも私に期待させるようなことを言うのだろう。

 何度、諦めようとしたことか。女を好きなんて、気持ち悪い。自分でも解っている。けど、それでもやっぱり好きだから。

 彼女を恋愛対象として見ていると自覚してから、自分が気色悪くて仕方なかった。爪を噛む手が止まらなかった。それと同時に、雪奈に嫌われることを恐れつつ、彼女の傍を離れられない自分が大嫌いになった。


「鳴海さん?」


 雪奈が心配そうに、私の顔を覗き込む。


「雪奈、私……」


 さほど勉強しなくても、テストでは学年で一番の成績をとれてしまう。さほど練習しなくても、何でもスポーツが出来た。知らない人からも好意を持たれるし、かっこいい彼氏もいる。

 でも、いつだって一番欲しいものは、絶対に手に入らない。


「私ね」


「あれ? かなちゃん?」


 私の声を透き通った声が遮る。靡く銀の髪と長いスカートのその少女は、紛う方なく笠原小百合だった。


「ゆきちゃんも。今、帰り?」


 悪びれる様子の無い愛らしい笑顔が、私にはとても憎たらしく感じた。


「そうだよ。さゆも帰ろう」


「……いいかな?」


 笠原がもじもじと恥ずかしそうに私を見てくる。

溜息を吐くのも憚られ、声には出さず、ただ頷くだけに止めた。


「やった」


 軽くスキップしながら鼻歌交じりに、笠原は自分の下足箱へと向かった。


「それで、鳴海さん。さっき、何て言おうとしたの?」


「っ、何でもない」


 雪奈の薄い微笑みに、私は喉に引っ掛かった言葉を飲み込んだ。

 

 私はなんてことを口走ろうとしたのだろう。

 笠原が来てくれて安堵した半面、もしもこの世界に、私と雪奈の二人きりだったならと、そんなことを想像している自分がいて、やはり気持ちが悪かった。

次回から、中谷雪奈視点「アザレア」が始まります。


アネモネの花言葉

「恋の苦しみ」「期待」「君を愛す」

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