アネモネ1
私は嘘を吐いている。
本当のことを口にしてしまったら、私は今より生き辛くなってしまうから、本当の気持ちは、絶対に言わない。
「2年間一緒のクラスな上に、席までまた前後じゃん。どうする? 結婚する?」
桜が散り始めた新学期。春とは言ってもまだ少し肌寒く、私は黒いセーラー服も上に濃紺のパーカーを羽織って登校した。
2学年に進級し、クラスが変わったことで、周りの生徒が会話に花を咲かせ友達を必死に作ろうとしている中、親友の中谷雪奈が、今、私の前にいて、いつもの軽口を叩いていることに安堵する。
髪を留める用途としてではなく、飾りとして身に着けている赤いピン留めも、地毛の明るめな茶髪も、人の良い笑顔も変わらない。たった数週間、会わなかっただけなのだから当たり前だと思うが、雪奈が変わらず私に接してくれることが嬉しかった。
その分、カーディガンを新調したことと、髪を二つ結びにしたことは指摘しなければいけない。女子は変化を突かれることに弱いのだ。それは雪奈だって同じこと。
「雪奈、カーディガン新しくなってるね」
私が指摘すると、雪奈はぱぁっと表情を明るくした。
童話に出てくるお姫様がドレスの裾を持ち上げるように、堂々とした態度で真新しい黄色のカーディガンの裾を広げてみせる。
「さっすが、鳴海さん! 目聡い! いやぁ、やっぱりモテる女は違うね。鳴海さんが男だったら惚れちゃってたね。ホント、ぞっこんだったよ。きっと」
「私が男なのかよ」
やはり女子は、変化を突かれることに弱い。前髪を切ったとか、メイクを変えたとか、そういう小さなどうでも良いことに気付いてもらえることを喜びとする。
私は女という生き物のそういう美徳を羨ましく、そして可愛いと思った。自分も女の性を受けて生まれたのに、可笑しな話だ。
私がクスッと呆れ顔で笑うと、雪奈は「あっ」と声を上げ私の下を離れる。視線で追うと、彼女は他の女子の集まりに入り、気の利いた冗談を言って笑い声を浴び始めた。
雪奈は人気者だ。人懐っこい笑顔で近寄り、はっきりとした声で皆に都合の良い言葉を紡ぐお調子者。たとえ環境が変わっても、彼女の周囲に人は絶えないのだろう。
行き場の無い怒りに、私は無意識に左手の爪を噛んだ。しかし、すぐに手を引っ込め、左の腕を押さえつける。イライラすると真っ先に爪を噛む悪習慣を直すために、面倒臭いネイルをするようになったにも関わらず、効果はてんで現れない。
それが、新品のカーディガンのみならず、長くなった髪を二つに結ったことを指摘出来なかったことへのイラつきなのか、雪奈が自分以外の人間に笑顔を振り撒いていることへのイラつきなのか。
考えなくても解る。どうせ、両方だ。