表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の最終定理  作者: 朝霧柑平
1/4

プロローグ

日常と非現実を織り交ぜた、主人公の苦悩を描く予定です。ロースタートからの盛り上げができたらと考えています。


ゆっくりとしたペースの更新になるかもしれませんが、お付き合いと、お時間をいただけたら幸いです。

途中で投げ出さないよう、頑張りたいと思います。

 地球に存在するのは、静寂だった。

 雲一つない夜空が、すべて吸い込んでしまったかのような音の闇を広げている。青白い月あかりが、大地を眩しく照らす。


 地球に存在するのは、当然の因果だった。

 うっすら掻いていた汗を拭う。木々を揺らす風が、まだ地球が動いていることを証明してる。


 沈黙と青い街を男が歩いていた。疲れ切った顔の頬には汗が滴り、乱れた黒髪はやるせなさを増幅させている。その背中には一回り小さい女性の姿があり、今にも砕けてしまいそうな華奢な体をすべて預けている。手足を力なく垂らし、閉じられた(まぶた)が開くことはない。やがて静かな街を抜け、大きな広場にたどり着く。ビルと背の高い木々に囲まれ、人工物と自然の織り交ざりが周囲と隔絶した空間を漂わせる。


 血と汗で汚れた腕時計を軽く拭き、時刻を確認した。あと数十分で夜明けを迎えるだろう。

 ゆっくりと女性を降ろし、中央の巨大樹の根元に寝かせると、腰まで伸びた美しい銀髪が柔らかく広がった。大人びた、しかし顔に柔らかさの残る彼女の顔は、人とは一線を引く魅力を感じさせる。

 数歩下がり、腰からナイフを取り出した。鉛のように重く、疲れ切った腕がナイフを持ち上げる。しかしながら、鋭い刃先は一切の迷いなく自身の左腹に向けられた。


 地球に存命するのは、一人だった。

 世界中の人々が、体内の芯を抜かれたように倒れており、唯一人として起き上がることはない。生存者を探す必要もない。これは決定されていた末路だから。


 結末を知っていた。人類の滅亡は、災害でも、核戦争でも、隕石でも、ウイルスでも、AIでも、宇宙人でもない。そんなものは空想で、より単純で、最も理解から離れた原因である。


 地球に存在していたものは、不平等な生を与えられ、平等な死を迎えた。


 それが神の定めた(ことわり)だから。


 細く息を吐いた。歯を食いしばり、左腹にナイフを突き刺す。薄い皮膚を突き抜け、肉は抗うことなくその刃を通し、柔らかな内臓はナイフを受け入れた。


「――っ!」


 痛みで息が詰まりながらも、両手で右腹にナイフを運ぶ。その行為は間違いなく死ぬことを目的としていた。震える手でナイフを抜き取った瞬間、膝から崩れ落ち、ゆっくりと前に倒れる。溢れ出る血液は、道の凹凸に沿って大きく広がっていった。


 ――――痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。


 腹部は燃えるように熱く、傷ついた内臓の一つ一つが暴れまわるような不快感が、呼吸を荒くする。自分の腹部から流れ出る血液を感じながら、重くなる(まぶた)を支えた。


 その瞳は死を見ていなかった。その瞳は過去を見ていた。その瞳は未来を諦めていた。


 ――もう一度だけ――。


 それが男の願いだった。


 赤黒い花が広がり続ける中心には、動かなくなった男の姿があった。力なく開かれたその瞳の奥は、もう何も映していない。何も知らない太陽が、空ををオレンジ色に染め始めていた。




 神は結果のみを残す。神は空白の過程を教えることなく消えていった。


 ――神の最終定理――


 これは、人が証明することも反例も挙げることも出来なかった定理である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ