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「スカイディアへ」  作者: プレG
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第59話 大森林からの退避

竜人たちが思っていたよりも、大森林の被害は広範囲に渡っていたようだった。


「シェリー、急いで降下して。 助けに入ろう!」


竜人たちの前方には、他種にわたっているように見える獣人たちの大集団が、魔獣の群れに追い立てられるようにオークランを目指していた。


魔獣の方も、様々なタイプがいるあたり、なにか普通ではない事が起こっているようだ。


大森林を抜けるあたりで地に降り、シェリーを先行させる。


集団までは5キロほどあるが、シェリーならすぐに追いつくだろう。


自分なりに大急ぎで走って後を追う竜人の後方から、ボーンが現れて声を掛けてくる。


「むっ? どうした竜人。 シェリーに振り落とされでもしたか?」


ボーンに向かって振り向いた竜人の表情を見て、どうやらただ事ではないと察する。


「前方に敵か?」


竜人に並走しながら、進行方向に注視する。


流石に何も見えないが、「シェリーが先行してます。 魔獣の群れが、獣人たちの集団を襲ってます!」という声を聞くと、「分かった。 先に行っておるぞ!」と返事をして速度を上げていく。


どんどんと小さくなっていくボーンの背中を見ながら、竜人の心の内には無力感がこみ上げてくる。


(クソっ! こんな時に何も出来ないなんて!)


呼吸を乱さないために、悔しさを声に出すことすら憚られる自分の現状に、苛立ちを隠せない竜人。


30分ほどでシェリーとボーンに合流することが出来たが、その時にはすでに二人は魔獣の排除を終え、獣人の集団をオークランへと送り出した後だった。


「...  どうでしたか?」


息が整うのを待たず、ボーンに訊ねる。


「あぁ、被害はほぼなかった。 腕のいい冒険者が警護についていたようで、怪我人こそ出ていたが欠けはなかったようだ。 あの者にも手伝ってもらえると良いが。」


「そう、ですか。 しかし、上から見た時にはかなりの大人数だったようですけど。」


「さっき女の子に聞いたら、全部で1000人近くいたみたいよ。 後ろから攻めてきてた魔獣を、戦士やら冒険者やらで食い止めながら避難してたんだって。 私はそのさらに後ろからの襲撃だったから、結構楽ちんだったわ。」


「しかし、あの戦士たちは良く統率も取れておったな。 オークランに着いたら話をさせてもらわねば。」


「ともあれ、無事な人が多くて良かったですね。 それにしても、獣人族たちが大森林を大挙して脱出するほどの状況だったとなると... シェリー、フィッツたちの所に戻って、彼らに避難する気があるようなら、オークランまで護衛してきてくれないかな?」


先程の集団を護衛していた人たちも、流石にすべての種族を連れては出れなかったんだろう。


もしくは、狐族がまだ襲われていなかったせいで、避難を断ったか。


どちらにせよ、あの状況ならば避難を選ぶだろう。


「でも... 竜人は一緒に行かないの?」


「あぁ、俺はこのままボーンさんと一緒にオークランに行って待ってるよ。 先に情報収集や下準備をしておくから、戻ってきたら宿で合流しよう。」


渋々、という様子ではあったが、それを受け入れ、再び大森林へと戻っていくシェリー。


「では、我らは後方を警戒しつつ、オークランへと向かおうか。」


ボーンと共にオークランへと移動を開始する。


あまり速度を上げると前方の集団に追いついてしまうため、途中途中で食事をしてみたり、キャンプをしてみたりと時間をつぶしながらの行動となった。


竜人は獣人の身体能力を甘く見ていたようで、竜人たちが時間をつぶしている間に、獣人たちはすでにオークランに到着しており、そのほとんどが防壁の外でキャンプを始めていた。


オークランの警備兵と領軍が、大挙して押し寄せた獣人たちを街に入れなかったが、獣人たちはそれも予想はしていたようだ。


すぐに各種族のトップたちが集まって、オークラン側との話し合いの席を設けよう、という決議がされた。


1000近い獣人が押し寄せるという緊急事態にオークラン側の対応も早く、その日のうちに領主たちと獣人たちとの間で話し合いの席が持たれた。


獣人たちから聞かされた大森林の異常を、初めは信じられずにいたオークランの代表たちも、段々と事の深刻さを認識していった。


何しろ、複数のCランク冒険者でも敵わない程の相手が複数いた、ある村には魔獣が100近く攻め入ってきた、他の種類の魔獣が行動を共にしていた、という情報が、次々と出て来たのだ。


魔獣に噛まれると魔獣になってしまう、や、謎の魔法使いが魔獣を生み出している、と言った話まで出てくる。


極めつけは、真偽のほどは分からないが、『人が魔獣に変わった』だ。


元々、隣接している土地から攻め入られることは殆どない上、比較的強い魔獣が出にくいオークランには、街の治安維持のための警備兵として100名程と、ダンジョンや魔獣、対外的な要因の為の職業軍人ではない領軍が500名程いるが、1000近い獣人族が逃げ出すほどの相手と戦うのは、とてもじゃないが無理だろう。


幸い、オークランの街には十分な食料備蓄もあり、1000人程度なら受け入れられるだけの場所もある。


元々、大森林に隣接している立地上、獣人への偏見も大人しいものなので、まずは彼らを受け入れる事として話を進めていった。


獣人たちにこれからの事を訊ねると、代表の一人が言った。


「我々は大森林を捨てることはしない。 オークランの皆様には迷惑をかけてしまうが、ここで部隊を編成し、湧いて出た魔獣を駆逐する。」


「そうだとしても、まずは敵の戦力がどれほどなのかもわからないままでは... 戦士長、どうするつもりかね?」


「そうですね… まずは冒険者ギルドと王国の両方に依頼を出しましょう。 Cランクの冒険者数人では敵わないレベルの魔獣がおりますから、可能であればBランクやAランクを出してもらえれば。」


そう言った戦士長に、オークランの領主は思わず声を出す。


「Aランクだって!? 聖騎士団の団長でも呼ぶつもりですか? それに、Bランクの冒険者だってほとんどいないわけですし、いくらかかるか分かりませんよ!」


「領主様、おっしゃることは分かりますが、事実そのランクの者でないと倒せない敵がいるのです。 大森林も王国内にあるのですから、王都に使いを出せば、騎士団長や冒険者の手配をしてくれるのではありませんかな?」


「確かにそうですが、そうなると一体いつになる事やら...」


「それに、ここまで下がってくる途中、かなりの強者に出会いました。 彼らもきっとこのオークランに向かっているはずなので、確実に仲間に引き入れたいですね。 おそらく、Bランク以上の実力者だと思います。」


撤退中に援護をしてくれた、女性と中年戦士。


どちらも自分の数段上の力を持っていた。


彼らが味方してくれれば...



オークランの街では、順次受け入れの支度が整えられていき、数日のうちに全員が建物の中で眠れるようになるだろう。


街の外で、戦士長はここまで無事に辿り着いた仲間たちに向け、声を張る。


「大森林に住む獣人たちよ! 我らの大森林を取り戻すべく、共に戦うものを集めたい! 魔獣は強いが、だからと言って放っておくわけにはいかない! 大切な者を守るため、失った者の敵を討つため、自分の力を試したいため、理由は何でもいい! 明日から大森林奪還へ向け、有志を募る! 戦う意志のあるものは、この俺、兎族のダンクの所に来てくれ。 以上だ。」


さて、どれほどの数が参加してくるものか。


今回の戦いで、戦士の多くを失ってしまった。


撤退戦の途中で偶然顔を出しに来ていた途中のアリスに会い、そのおかげで、こうして多くの獣人たちと共にここまで来れた。


一体何があったのかは聞いていないが、アリスは既に俺よりも強くなっている。


我が娘ながら、その素質は素晴らしいと思ってはいたが、この短い時間で、一体何があったのか。


竜人殿を追っていったが、今は一緒にはいないようだ。


しかしあの時、アリスが村に着く前で良かった。


もしアリスがいたら、きっと殺されてしまっていただろう。


強くなったアリスですら、アイツには敵わないはずだ。


考えられるのは、あの旅人が何かをしたのではないか、という事。




「ルーク... あの力は一体...」

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