第4話 夢の世界へ
どれくらいの時間がたったのだろう。
竜人は夢を見ていた。
ファンタジーな世界に転移し、美しい森の中で魔物に襲われている獣人の少女を「力」を振るって助ける夢だ。
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物心がついた時から、ずっと自分について回っている問題。
自分には超能力があり、どうやら自分以外のほとんどの人には超能力はない。
幼い頃から備わっていたこの「力」は、竜人に様々な成長をもたらした。
幼くして自らの異質さに気が付くほどの精神的成長であり、「力」を使うことへの、そして使わないことへの違和感を無くすほどの肉体的成長。
特別に頭が良くなるわけでもなく、運動能力が高くなるわけでもなかったが、「力」がない人達と同じように、これ以上はみ出ないようにと、無意識に自身に枠を作り、枷を掛けていくことが、竜人にとっての成長だった。
この、当たり前でいて、どこか当たり前ではない日常の中、竜人は立派な一般人になっていた。
幼稚園でのケンカの際には叩かれてちゃんと泣き、小学校の運動会の徒競走では4人中3位だった。
卒業旅行で行った北海道のスキー場で遭難し、低体温症になりかけても炎は出さなかったし、目の前で通り魔事件が起きた時も、自分には向かってこなかったのでそっとしておいた。
無意識下での「力」の使用はほとんどなくなり、意識して使う「力」は、不必要なものとして、どこかに置きっぱなしにしていた。
ゲームやマンガなどでファンタジーな世界に触れ、段々と惹かれていったのは、その世界ならもしかしたら「成長」を必要とせず、「普通」ではないことに怯えなくて済むと感じたからかもしれない。
ファンタジーな世界観の小説を読み、映画を見て、気が付かないうちに感情移入しすぎていたのかもしれない。
大人になり、一人で暮らしていくうちに最近ではとんと忘れていたが、幼い頃に感じていた疎外感、異物感のようなものが内に残っていて、知らず知らずにそれが自分をファンタジー趣味に走らせたのかもしれない。
今までも、夢の中でファンタジーな世界を体験したことは度々あったものの、ここまで鮮明に、それこそ森の緑の香りから、獣人の体毛の1本まで、を感じられるほどの夢はなかなか見ることは出来ない。
「これは、幸夫のお陰だなぁ…」と、きっと昨晩、自分が読みながら寝てしまったであろう本、「スカイディアへ」の内容、世界のディテールがこの夢の鮮明さに一役買っているんだろうと思い、感謝する。
それにしても、夢の中とはいえ、「力」を躊躇なく使っていると、不思議と心が軽くなっていく気がした。
スカイディアでなら、きっと超能力だって珍しくはないだろうと思いながらも、あるがままの自分を世界が受け入れてくれたような気がして、また少し涙が出た。
「この夢は、醒めてほしくないなぁ。きっと、これから恋愛要素や冒険だって出来るだろうし。」なんて思いつつ、冒険より先に恋愛が来てしまう30男な自分に一笑いしてしまう。
そんな幸せな時間に終わりを告げるように、竜人は肩口からユッサユッサという振動を感じる。
「あぁ、やめてくれ、邪魔しないでくれ!!」
必死に夢の世界にしがみ付こうとするが、思考は急速に夢から引きはがされていく…




