プロローグ
私には道がある。
それは生まれてからずっと私の前に延びていて、
歩いても歩いてもゴールには辿り着けなかった。
真っ暗で、それでも道はまっすぐ伸びていて。
見えないはずなのに、その道はクリアに見えていた。
極道。
それは道を極めし者の定め。
「はぁぁ、暇だなぁ…今季のアニメはイマイチだったんだよねぇ」
私は畳の上でゴロリと寝ころびながら呟いた。目を瞑り、ゆっくりと息を吐く。
時計の針がカチカチと静かな部屋で鳴り続ける。
畳の匂いと障子越しに照らす太陽の光が心地よく私を包んだ。
「眠くなってきたー」
私はあたゴロリと寝返りをうち、目の前に広がる光景に苦笑を洩らす。
―――これを見られたらまた飽きられちゃうかな。
10畳ほどある部屋には大きな木製のタンスに、掛け時計、布団入れ、小さな座卓に掛け軸がある質素なお部屋。
それだけだったらただの質素な昔ながらのお部屋。私の部屋はそれだけではない。
漫画にラノベ、パソコンにその他周辺機器、気持ち程度のグッズの数々。
「この家でこれだけ集めるのがどれだけ大変だったか、分かんのかって―の…あ、」
ボケーっとしていると、外から車のエンジン音と複数人の騒がしい足音が聞こえてきた。
そしてガチャンという門の開く音がする。
―――帰って来たのかな。
〝あの人〟が帰ってくるときは大体こんなに騒がしいから、きっと間違えることなく〝あの人〟だろう。
誰かが帰宅したことに間違いはないのだが、私はそのままの体勢から動こうとは思わない。
なぜならひたすら動きたくないから。
「「「「ご苦労さんでございます、若頭!」」」」
車のエンジン音が消え、次に聞こえたのは数人の叫び声。
―――違った、迎えの声。
いつもいつもあんなに盛大にお迎えしなくてもいいのにと私は思ってしまうが、それがこの家では普通であるのだから仕方がない。ちなみに私の家はこんなに暑苦しくはなかった。
ドンドンドンと足音が次第に近づいてくる。特に感情が乗っているわけでもないただの足音、これもいつも通り。そして次に起こるのは、
「…帰ったぞ」
「おかえりー」
私の部屋の障子を開けて、呆れたように自身の帰りを告げる彼。
そんな姿を見て私も言葉を返すが、その態度はよろしくはない。
相変わらずの無表情で私を見下ろしているが、鬱陶しいと思われているわけではないのでダメージは受けない。というか毎日同じ感じであるのだからダメージを受けていたら私のHPが持たない。
「今日は何かしたか?」
「いつも通りですよ、若頭さま」
「だよな」
そしてパタンと閉められる戸を見送って、私はまたゴロリと寝返る。
―――何かしたか?
その答えは『No』だ。
しいて言うのならば『何もしていない』だね。
炊事、洗濯、掃除そのほか諸々、一切。
私はゆっくりと状態を起こし、障子を開けた。
外はまだ明るく、陽は沈みきっていない。
最近は夏が近いせいで陽が沈むのが遅いのだ。
縁側に腰を下ろし、大きく広がる中庭を見つめた。
そして昔のことを思い出す、ここに来る前の実家ではこの隣にいつもおじいちゃんがいてくれていた。
『紗永遠は今、幸せか?』
『んー、分かんない。お父さんもお母さんも怖い人といつもいるし』
『…極道の娘は嫌か?』
『ごくどう?』
『はっはっは、まだ紗永遠には分からんな』
『むー分かるもん』
『…紗永遠、極道とは道を極めた者が歩む道だ』
『道?』
『お前の極道を見つけるんだぞ―――』
昔おじいちゃんが言っていた言葉だ。
幼かった私にはまだ難しく、いったい何を言っているのだろうと思った。
しかし幼いながらにも私はその意味を理解しようとして努力はしたし、成長するにつれて自分もこの家に産まれたからには道を極めなければいけないと思って生きてきた。
そして松川家…松川組、長女、20歳。
松川紗永遠はニートへの道を極めてしまったのだった。
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プロローグです、次こんなの書こうかなっていう下書きでもあります。
続きはきっと書きます、でもすぐではないのでご了承ください。
(※極道のことをもっと勉強して、リアルとあまり相違のないものを書きたいと思っております)
では、また会う日まで…