試験
私には生きてる意味がわからなかった
剣を握り続ける力も、魔法の前には非力だった
私の魔法はすべてを喰らい、誰もが恐れ慄いた
だから、私はずっと一人だった
それで構わなかった、誰かと話すのも、誰かと笑うのも、この凍てついた心ではできなかった
この心を溶かしてくれるものすら待っていなかった
私はずっと知っていた、幸せの後には不幸が待っている
わかっていたはずだった、なのに
どうして私を裏切ったんだ
私は君を信じていたのに
君たちを…信じていたのに
だから私は君を殺す
君に殺された私の心を刻み付ける
そして、私もすぐに行く
だから
それまで待っているといい、絶望を知らず、なおも希望の中で輝き続けろ
希望に照らされた世界が、どれだけ醜いものか
それを知るまで…お前は幸せなままでいい
「受験番号107、アリヤ・マグロイド、前に出なさい」
僕の名前が呼ばれ、無感情に歩き出す
試験官の前で止まり、指示を待つ
「アリヤ=マグロイド、試験官のウィグス・M・エイラだ、君の実力を試す」
僕は試験官の合図と同時に踏み出す
もう昔は捨てた、満たされぬ心に氷を詰め、燃えない魂を冷やし続けた
試験官の火球が飛んでくる、この程度は避けるまでもないと、氷の剣で引き裂いた
「なんだと!?」
相手が驚く、そんなことはないだろう?だってまだ最初だ
「じゃあ次は…僕の番だね」
相手は身構える、やめてよ、そんなことされたらどこに当てればいいか迷うじゃあないか
僕の目の前に氷弾が浮かびあがる
「なんだこの数は!?」
また相手が驚く
魔法陣から氷の雨が降り注ぐ
それは剣の様に、矢のように
「『氷結の雨』」
無慈悲に降り注ぐ氷の雨が、相手へと迫る
「『ウィンド』」
突然横から突風が吹き荒れ、構成が甘かった魔術は進行方向を変える
「学園長!」
やれやれ、どうやら大物さんのご登場のようだね
「いやいや、すいませんね色々と遅れてしまって」
おかしい
なにかがおかしい
なぜ彼がここにいる?
私が死ぬ一年前、彼は学園を去った
正しくいうのならば、王宮へ仕えるために名誉教師だった彼はいなくなった
なぜ今ここにいるのか、それよりも何故
何故、彼はこんなにも衰えている
私の覚えている彼の魔法はもっと効率がよかった
もっと、力がこもっていた
なぜ、彼はこんなにも衰えている?当時30代前後だったはずだ
「試験は合格でいいでしょう、ただ少し話したいことがあるのでね、彼を借りても?」
彼は試験官に話しかけ、私を連れて行こうとする
なぜだ?本来いてもおかしくないはずの技量で抑えたはずだ、あの魔術だって、やろうと思えば誰だって出来るはずだ
「構いませんわよ」
声の主は言うまでもない
「お嬢様…?」
「それは感謝しますよ、公爵嬢」
学園長は微笑みながらわたしへと語りかける
「行きましょうか、アリヤ君」
何がなんだかわからないまま、私は主の思惑を探っていた
とはいえ、まずはその主の言葉にしたがい、私は歩き出した