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snow tears  作者: 凡 飛鳥
本編
5/7

門出

話が進むたびに自分の才能のなさを自覚してしまい卑屈になってしまいますね

私は生きていた

信じた彼女のもとで

彼女の従士として生きた

ワインを飲む、いつもと変わらない味だ

彼女に近寄る暗殺者はその氷で切り裂いた

そこに感情はなかった

自分の刃に他人が抉られていく感覚をどこか喜んでいたのかもしれない

私は彼女のための傀儡だった

いつしか人間として生きることよりも、人形として生きることを選んでいた

彼女が、それを悲しんでいることも知らずに、ただ彼女の人形は彼女を守る、それだけを考えていた

自分が救われることを、彼女は思っていたというのに

感覚もない僕に、アリアート様が声をかける

「アリヤ、行きましょう」

彼女の凛とした声に導かれ、僕は風の吹くテラスを離れる

そこに飲みかけのワインは零れて、器はそっと割れていた



アリアート様は今年で15歳、私はそろそろ16だろう

彼女が魔術学校に行く為に、私も付き人として付いていくことになってしまった

それに異論はない、しかし彼女の付き人として相応しいのか、私はずっと思ってきた

そのためにも僕はずっと魔術を鍛え続けてきた

自分はそれしか知らなかった

氷を作り、刃と変えた

氷を射出し、矢と化した

氷は敵を封じ込め、拷問だってしたことだってある

それに意味があったのか、僕に強さは必要なのか

僕はここにいる意味があるのか

僕はずっと悩んでいたんだ

それに、意味なんてないと知らずに


 

「アリヤ、お嬢様を頼みましたよ」

初老の執事が念を押す

「わかっています、必ずお守りしますよ」

執事はニコリと笑うと私に剣を譲る

「これは?」


「あなたが来てから、この時のために貯めていた物です、いざとなったら、この剣を使いなさい、私がかつて目指したもの、その一部を内包しています」


彼はエンチャンターになりたかった

それが、自分が歩む道と信じて

彼が目指した道は、おそらく間違ってはいなかった、だが彼がエンチャンターになるには、余りにも才能がなかった

魔力の放出が圧倒的に苦手だったのだ、彼は魔石を使うことでこれをなんとか出来たが、代償として差し替えが必要になってしまった

剣に使うには、余りにも装置が大きくなる

盾に使うには、余りにも重すぎる

弓に使うには、重心がずれてしまう

欠陥品と言われた、彼はそれを一生を賭けて小型化した

彼の最後の作品であり、最高の作品と言っていた

同じものは、おそらく作れないと


彼は私のためにそれを作ってくれた

その意味を、私は知っていた

「有難うございます、この剣、我が魂にかけて一生の誇…」

「やめなさい、アリヤ、あなたはまだ未熟です、きっと私より強い、私より素晴らしい未来がある、だけど君はまだ子供だ、君の境遇は知っている、だけどね、未来は広がっているのですから」


この人がなぜ私に厳しく、優しいのか、私は知っている

僕は、初めてここに来た時は彼しか話し相手がいなかった

そして、彼のかつての息子、その姿を私に写していたのだ

「…はい、そうですね、わかりました、『父さん』」

私はせめて、彼に恩返しをしたかった

欠片ほどでもいい、彼は、私が彼にそうであったように、救いであったのだから

「…!まったく、いたずら好きな『息子』だ」


彼の笑顔は、呆れたような、喜んでいるような

きっと彼は、分かっていたのだろう、その未来は僕だけのものだと、それでも彼は失ってしまった息子を思ってしまった

私はそれに答えなければならない

僕は『家族』なのだから、そうしてしまうのは当然だと、そう思ったのだ


「アリヤ、出ますよ」


「行きなさい、アリヤ、貴方の道を、私は見守っていますよ、そして信じています」

「私は、貴方の未来は、きっと素晴らしいものなのだと」

彼は、その白が混じった髪を揺らして笑った

「恐れを知らぬ戦士よ、貴方の未来を祈りますよ」


「はい、行ってきます」

意思のない言葉に意味はない

だから私は意思を込めた

私は、私の信じる道を行く

示されなくてもいい、操り人形でもいい

永遠に敵を殺し続ける

我が名声を聞けば、多くの敵はひれ伏すだろう

そのために、わたしは地上に出たのだから




馬車に乗り込むとアリアート様が声をかけてくる

「アリヤ、ニルムと何をお話になっていたの?」

わたしはその疑問をおかしく思いながら、それらしい言葉で受け流すことにした

「剣を頂いただけです、この刃であなたをお守りできるようにと」

「フン…」

お嬢様は不服な態度でそっぽを向いた

馬車が動き出すと、多くの侍女が腰を曲げ、当主は涙ぐんでいる

まったく、親馬鹿な方だ。


揺られる馬車で刃を引き抜く

新品のように光りながら、卑しさは感じられない

刀身に彫られた魔術の刻印は魔力を通すと紫電を纏う

意味は古代の言葉で『恐怖』『無知』『戦士』

直訳するならば『恐れを知らぬ戦士』とでも言うべきだろうか

彼も粋なことをするものだ。




10日に渡る日々で、山賊に襲われたりしながらも特に問題もなく王都へとたどり着けた。


「アリヤ、着きましたよ、わたしは宿の手続きをしますので、貴方はお嬢様と共に学校へ、領主様より特別生徒としての推薦状を頂いております」

手渡された紙を丁重に仕舞う


「了解しました、これより魔術学校へと赴きます」

お嬢様の後ろを歩く私は人形だ


「アリヤ、あなたの魔術は隠蔽するのも難しい、存分に見せつけてやりなさい」

その言葉に異論はない

言うまでもないだろう、強力な魔術師はそれだけで価値を持つ

公爵の娘であるお嬢様の名声を上げることになる

「しかし…わたしはそれでよろしいのでしょうか、わたしはわたしはただの従士、貴方様の下僕です」


「やめなさい、アリヤ、貴方は私の従士だけど、下僕じゃないわ、私はあなたを評価しているのよ、貴方の感情で私の命令に背くことは許しません、いいわね?」


「…そこまで仰るのでしたら、依存はありません」


「よろしい」

私は不死者だ、理由は知らない

ただあそこに行けば奴らがいる

答えはそこにあると、私は信じている

私は、自らのコアが脈打つのを、空っぽな心で感じていた

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