再生
暗黒魔術、世界で悪とされる魔術の一種
魔法と魔術は、大して変わらないと言われる
魔術は魔力を利用する術
魔法は神々より伝えられる法則だ、
僕が得意とするのは魔術だった、規定のものが嫌いだった
これは置いておくべきなのだろうか
彼女は僕を復讐者から冒険者と改変し、あたかもいい人かのように言った
そんなはずじゃない
僕は殺すんだ
君の友人を、この世界を
甘えていい存在じゃない
そんなものいらない
狂いかけた心に水をかけられたかのように、世界はさっぱりと、透明に見えた
黒い闇と、その中にある光
掴み損ねて、ずっとそこで駄々をこねていたガキとおなじだ
僕はそんな男だ
だけど彼女のする話は違った
曰く、裏切られて、悪魔の刻印をされた
死にかけていた自分をアンデッドになってまで救ってくれた
冒険者としての物品は全て裏切られた時に奪われたらしい
悪いアンデッドなんかじゃあない
そんな夢物語みたいな話だった
入ってきた者達を洗脳した悪魔みたいな男だ
そんなことを知りながらも彼女は僕を『人間』だと言ってくれた
これが人間か、そう思うと彼女の主だろうか、少女が剣を向けてくる
「あなたは、どうして自分が死んでまで彼女を救おうと思ったの?」
しるか、そんなもの
「君に答える道理はないな」
少女は剣を掲げ、僕を殺そうとする
その剣を、彼女が、僕の代わりになって受け止めた
「レイ…チェル…」
彼女の体は不死者だ、その核を破壊されれば、再生はできない
彼女の体は、雪のように、細切れになって散っていった
「レイチェル…あなた…何を…」
少女は剣をぶら下げ、嘆くように地に膝をついた
「なぜだ…なぜ僕を庇った、一人で生きていけたかもしれないのに、馬鹿な奴だ」
少女は、剣を地面に突き立て、そのまま立ち上がると、僕に目を向けて言った
「あなたを、地上に連れ戻します、アーヴァン国の帰属、アリアート・マーガロイドとして、あなたを保護します」
それは…そう言おうとしたとき、扉が開き、人が走ってくる
「アリア様!」
神官、というべき男だった
メガネをかけ、右手には銀の装飾をつけた杖
「アリア様、よか、った、大丈夫ですか…?レイチェル!どうして…まさか貴様がっ!!」
「お待ちください」
気付かなかった、黒髪の女性が神官の杖を握った
「彼はアンデッドです」
まずい、まずいまずいまずいまずいまずい
これがバレたということは、戦わざるを得ない、そして敵には神官
終わったな、そう思った時だった
「なんですって!? ついにこの時が、ああ!!これは神の思し召しに違いない!君!僕に協力する気はないかい!?」
こいつは何を言っている?
「貴様! 人が死んだんだ、人が死んだんだぞ!そんなものを貴様の好奇心で消し去るのか!!」
ありえない、何を言ってるんだ
人が死んだんだ、死んだんだぞ
神官はニッコリと笑うと、黒髪の少女に行った
「彼は悪いやつじゃない、僕が保証する」
黒髪の少女は剣を収める
「分かりました、神々に誓います、彼は人間を滅ぼすものではないと」
僕は困惑する
「僕をどうする気だ、つるし上げて、殺すのかい?」
自嘲気味に笑う僕に、神官はニヤリと笑う
「ある実験に不死者が必要でね、君を使わせてもらいたい」
なんだそれ、頭でも狂ったのか?
「どうでもいい、逆らったら死ぬんだろ?少しでも長く生きたほうがいい」
既に死んでいるのに、存在し続けたいと願う
彼女を、彼を、全てに復讐するために
そのためならあの溶けるような痛みも耐えてみせる
僕は復讐する
神がいるなら、そいつだって殺してやる
たとえ親であろうとも
僕がすべてを
喰らい尽くすために
「あそこの鉱石を耐え抜くことはできそうだし、走り抜ける、私が背負おう、そうすればなんとかなるかもしれん」
なんだこいつ?神官がアンデッドを救う?本当にイカれたやつみたいだ
「私はアンデッドを知りたくて神官になった身でね、恨みもなければ、憎悪もないのさ」
なんだそれ、随分とした知識だな
耐えろというのならば。
我が魂を縛るというのならば!
勝利の雄叫びを聞けば、立ち塞がる者は消えゆくと!
私を救う気ならば、私を人間にする気ならば
我が名にかけて誓おう!
永遠に悪を寄せつけないと
我が運命の祝福を祈ろう
太陽と並ぶほどの力を持った僕を従えるというのならば!
我が名にかけて誓おう
君を守ると!
私のせいで散ってしまった、彼女のために!
結論から言えば、私は彼らについていくことにした
貴族の娘と、その従士である黒髪の女、そしてどこかおかしい神官に
あの光は熱く、背中が焼けただれてしまった
回復術は私を蝕んだ
しかし地上の光は私を出迎えた
寝かせられたベッドの上で、すぐに傷が癒えていくのを感じた
もう私は人間で無くなってしまったのだと感じた
今まで汲んだ水で洗っていた体を、風呂に漬けられた
暖かいお湯は私を人間へと引き戻してくれた
矛盾する自分に涙する私を、貴族の娘は抱きしめてくれた
私は今、再び覚悟した
何があろうと、僕は何に変えても彼女を守る
私を救おうとし、守ってくれた彼女のために
優しい彼女を、恨んだ人間を信じてみたいと思った
もう一度だけでいい、初めて会った僕を抱きしめてくれる慈愛を信じたいと思った
だから僕は信じる
もう一度、この世界は優しいんだって
信じることにしたんだ