力
人間なんて、どうせ裏切る
辛いことがあれば、楽な方へ逃げる
それに罪悪感を覚えても、辛いことのせいにする
愛だって、翻弄される、金や力に動かされる
所詮人間などそんなものだ
なのに、なのに俺は人だった
狂いたくなるほど人間だった
その心も体も人間だった
人間らしく恋をした、でもそれは身分の差があった
でもその差を埋められる、力があった
僕がもつ一番の誇り
氷の魔法
僕だけの魔法
水を操る魔法がある
その中でも僕は氷結体の制御が得意だった
氷は冷たく、ガラスのように透き通る
それしかしらなかった
結局貴族の誇りのためなら、力なんてどうでもいいのだ
貴族の誇りという『力』が、僕の蕾である『力』を殺した
結局世界とはそんなものだ
だから、人間を信じない
この世界は僕が支配する、人に頼らないまま、僕だけが救われる世界をつくる…
はずだった
「レイチェル!」
振りかざされる黄金の髪、それに併走する漆黒
レイチェルと呼ばれた栗色の髪を持つ女性はまだ迷い込んだばかりで、僕が肉を食わせて懐柔しようとしていた、彼女はそれを拒んだ、それは人の肉だろう、と
「お嬢…様…」
貴族かよ、思いながらも否定したかった事実を突きつけられる
「あなたは?」
ここで終わりか、僕の人生も
そう思った時だった、黒髪の女が言った
「私と同郷かもしれません、一度出て話をしたい」
やばい、出たら激痛が走るような場だ、どうにもできない
どうしたらいい、どうしたら
その時、レイチェルと呼ばれた女が口を開いた
「その人は…ある人に裏切られて、ここを根城にしている…」
やめろ、言うんじゃない、なぜ貴様が知っている、そんなことは言っていない
「やめろ・・・」
終わりか、俺の人生も
「冒険者です」
なぜ、教えてもないことをこいつは…?
その女は、ニッコリとこちらを向いて笑っていた