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湿原越え

 旅は続き、道のりは長い。

 タクトの予想を裏切り湿原は広大だった。

 スライムとの邂逅から既に二日という時間が経過していたが、水と草の楽園は途切れない。

 二人は携行食料の摂取を控え、現地調達を開始した。

 広大な範囲に大量の水と草が有るのだ。

 当然、それを求めて接近する生物はいる。

 水が有ることから、二人はまず魚が釣れないだろうかと思案した。

 しかし考えたところで気が付く。

 自分達は釣竿も餌も持っていない事を。


「……で、どうする? 手掴みはキツイと思うが」


 ケンジが実現の水面を見つめながら発言する。

 問われたタクトは腕を組み目を閉じ何かを考え、ふと目を開きスライムを見た。

 暫し、スライムを見つめるとスライムが大きくその身を揺すった。

 それを見てタクトは満足げに笑った。


「この子を使う」

「スラ公を? でも溶けないか? 水とかに」

「大丈夫だと思うよ」


 不安げに言うケンジを余所にタクトは己の掌にスライムを乗せる。

 ひんやりとした心地良い感触をが伝播するのを感じながら、タクトはスライムへある命令を下す。

 スライムはそれに従い己の形態を球状に変形させる。

 ジェルの表面は硬化し水晶玉の様な感触をタクトの掌へ伝えた。

 そしてタクトは硬化スライムボールを勢い良くオーバースローで湿原へと投げた。


「お、おい?」

「ん?」

「投げて、大丈夫なのか?」

「……ああ、スライムについてそこまで知識が有るわけないもんな、そりゃ不安だ。よし、あの子が戻ってくるまで少しスライムについて説明しようか」


 タクトが橋に腰掛けるのを見てケンジもそれに倣う。

 そしてタクトは己の知り得るスライムについての知識を披露し始めた。

 スライムとは。

 流動するジェルをその肉体とする魔物であり、本体はジェル中央に漂うコアと呼称される結晶体である。コアは太陽光、あるいはそれ以外の何某かをエネルギー源として液体を己の身体であるジェル状のモノに変換し制御する機能を備えている。

 スライムを構成するジェルは万能の性質を持つ。あらゆる物質、細胞の代替が可能となるこのジェルを持つスライムは、その万能さ故に特定の形状を必要としないのだ。その万能さは魔法薬を代表とした様々な製造物の素材または代用品として重宝される。

 が、それを手にする者は少ない。基本的にスライムは洞窟の隙間や天井に張り付いて生物を奇襲し、得物を己のジェル内で消化しエネルギーをコア内に貯蔵する。また、スライムのコアはあらゆる索敵の眼を逃れるために発見することすら稀である。

 繁殖方法は様々であり、単細胞生物の様にコアを細胞分裂させるタイプがいれば多種族に寄生させて十全に成長するまでの期間を安全に過ごすモノもいる。

 このスライムは共生型と呼ばれ、己の分裂個体を他の生物に育てて貰う代わりに宿主へ魔法を授けるという特徴を持つ。このスライムの持つ魔法は光を操るモノが多く、現在共生状態にあるタクトはその魔法を手探りながら使用することが出来る。

 分布地域は主に洞窟だが、死角が多い水源にも稀に姿を現す。

 基本的に人間を代表した多種族に対する敵愾心はないが、空腹を感じると周りの生物を種に関係なく食い漁る。実はグルメ。


「とまあこんな感じ?」

「で、それをどこで知った?」

「あの謎発光の時からスライムと思考の一部が繋がってるっぽくてね? 知ろうと思えばスライムについていくらでも情報が湧いてくるんだ。……まあ、なんか聞かれなかったから情報を表示しなかったみたいな仕組みになってるけどね……」


 やれやれと苦笑しながらタクトが言う。

 魔物との契約の際、魔物使いとなる者は使役する魔物についての知識を取得する権限が与えられる。

 それは魔物側が許す範囲での権限であり、権限の範囲は魔物使いと魔物の間の信頼関係や好感度によって設定されるのだ。


「信頼、ねぇ?」

「ケンジが魔物だったらクラスの好きな奴とか暴露してとっても面白そうとかちょっと考えてしまう」

「おいヤメロ、そりゃプライバシーの侵害だ」

「冗談だって。……お、帰ってきた」


 タクトとケンジは湿原へと視線を投げる。

 二人は湿原の彼方に水飛沫を見た。


「……って飛沫? おい、あれどの位離れてる?」

「二キロ位じゃね? 大分縮まってるけど、速いね」


 上がる水飛沫は二人へと接近すればする程大きさを増す。

 一体スライムはどれ程のスピードを出しているのか、タクトはそんな事をぼんやり考えた。

 そして、水面からそれが姿を現す。

 それは体積を増したスライムだった。

 ソフトボール程度の体積しか持っていなかったスライムが、軽自動車程度のサイズにまでその規模を増大させていた。

 そして水しぶきを上げているのはスライムの水面から出ていない部分の様だ。


「……あれも、お前の命令か?」

「違う。……聞いてみたんだけど、何か僕の記憶からスクリューについての知識とか形状を読み取って再現したっぽい」

「スクリュー? なんでそんなもの……」

「ほら、映画とかで『スクリューに絡まって』なんて展開有るじゃん? 何回か見る内にプロペラ回して水を追い出すみたいなのが染み付いちゃって……。夏とか扇風機見るとよく思い出すんだけどね」

「知識の検索は一方通行じゃないのか?」

「ああ、うん。何か割とあのスライムが好きっぽいしね、僕」


 照れくさいのか、指で頬を掻きながらタクトが言う。

 二人が掛け合いをしている間にもスライムは接近し、そして岸となる木の橋の手前で停止する。

 波が収まり水中に見えたのは、全長9mは有りそうな大蛇だった。

 そしてその頭部は内側から破裂している。

 恐らくスライムの仕業だろう。


「……え、もしかして食料ってこれか? サバイバルにしたって難易度高くね?」

「大丈夫さ。蛇は食べられるんだ。なら僕達が食べられない道理はない」

「そういった発言はせめて額の冷や汗をどうにかしてから言えよ。滝の様だぜ?」


 理論的な事を言いつつも、タクトは初めて見る大きさの蛇に戦慄していた。

 そして二人は暫し途方に暮れる事と成る。



 結論から言えば、二人は無事に蛇を食した。


「……割と美味かった、な」

「うん、これは有りだと思う」


 今も水辺に浮かぶ蛇の死体から二人は己の食べる分を切り取り焼いて食べた。

 その際にタクトの魔法が役に立つ。

 タクトは光を操る魔法を使い太陽光を収束させて肉を焼いたのだ。

 要は虫眼鏡である。


「ただ、やっぱり調味料欲しいわな」

「うん。タレや胡椒とは言わないけどせめて塩とか欲しいよねー」


 いくら食えると言えど、味わえるのは肉本来の味だけであり、平成の世に生きていた二人には只の焼いた肉は味気ない物だった。

 ケイトは切り分けた肉へ収束させた太陽光を当て焼き始める。

 そして半生程度の焼き具合にした後それをスライムへ与える。


「ほれ、お食べ」

「スラ公にやるヤツは焼く必要あるのか?」

「必要かどうかは解らないけど、多分この子は肉を焼いた経験が無いだろうから焼いた肉の味を覚えさせてる」

「……何故に?」

「調理に興味を持ってもらう為。僕が魔法使えるって言っても病気で倒れるかもしれないじゃない? そうなったらケンジは自分で火を扱えるようにならないといけない。もしかしたら、最悪の場合僕達は冬になっても辿り着けないかもしれないんだ。ケンジが火を扱えるようになるのは急務だけど、それでも保険は掛けるべきだ」

「……成程ね」


 火の重要性はケンジも認識している。

 旅において、火は最も優れたツールだからだ。

 肉を焼き、寒い時は暖を取り、そして野生動物を寄せ付けないためにも使える火は、それ故に文明の象徴足り得た。サバイバルにおいてこの火の使い方は生存を左右するのだ。

 その点から見た場合、タクトの扱う光の魔法は優秀だった。

 何せ火種がいらないのだ。

 魔法もライターもない状態で人が火を得ようとするならば、燃料となる木材を用意し摩擦、或いは火花と枯葉等を利用した着火により火を手に入れ、そしてそれを維持しなければならない。

 一方でタクトの場合は燃料を用意したら虫眼鏡光線を使うだけで火を手に入れることが出来る。魔法が使えない状態にならない限り何時でも火を起こせるため、いざという時は火を消して燃料を節約することや燃料を用いずに調理を行うことが出来るのだ。


「しかし、光魔法は元々スラ公のモノっていうが、このスラ公が使ったのを見た覚えがないぜ?」

「そういやそうだね。ちょっと使ってみて?」


 タクトが話の流れからお使いでも頼む様な気軽さでスライムに命令を下す。

 了承の証か、一つ大きく震えるとスライムは魔法を使う。

 スライムを中心に発光する魔法陣が幾重にも形成され、本体であるコアのエネルギーが凶悪なまでに渦を巻きそして収束される。

 収束された光は球状に圧縮されその密度と秘められた破壊力を増し球状に整えられる。

 形容するならば光弾。

 拳程の大きさであるそれは、魔法について心得を持たないケンジをして本能的恐慌状態一歩手前まで陥らせる程の力を秘めている。タクトなど膝をガクガクと震わせている程だ。

 そして球体が彼方へと光を放つ。

 それは光線だった。

 光線は文字通り光の速さで駆け抜け湿原の草を薙ぎ、彼方へと掻き消えた。

 光線の照射は3秒程で終わったが、二人は生きた心地がしなかった。


「……なぁ」

「……何さ」

「この世界のスライムって皆こんなのかよ?」

「……考えたくない」


 二人はとんでもない生物兵器を仲間にした事に慄いた。

 そして当のスライムは焼いた蛇肉の味が気に入ったのか、タクトの虫眼鏡光線を真似て蛇肉を焼いていた。

 焼かれた蛇肉をそのままポイとジェルを変形させた触腕でジェル内に投げ入れ消化していく。

 タクトはその様子を見て繋がった思考からスライムの機嫌を窺ってみようと考え実行する。

 スライムの思考内部には音符が3つ程浮かんでいた。

 どうやら機嫌は良いようだとホッとしつつもタクトは己の掌へ目線を向ける。

 己に宿されたスライムのコアは先程の光線と同類の力をタクトへ与えた。

 ならば、自分にもそれを使えるのではないだろうか。そう考えた。


「…………」


 タクトは掌へ意識を集中させる。

 イメージは先程スライムがやって見せた光線だ。

 まず光を収束し、そして光を収束しきれずに霧散させてしまった。


「……………………」


 魔法の失敗を見届け、タクトはスライムに視線をやる。

 そこには蛇肉を焼く奇妙奇天烈なスライムとそれを警戒する親友が居た。


「ホント、何なんだろうね?」


 タクトはこの世界に生息するスライムの理不尽さに苦笑を漏らした。



 二人は湿原の橋を三日歩いた。

 途中でスライムに蛇や魚等の食料を調達して貰う事により携行食料のストックはまだまだ余裕がある。

 しかし二人は飽きてきた。

 刺激の無い味に気力を削がれ、とうとう二人は飴玉を食べ始めた。

 贅沢は敵、とは誰が言った言葉だったか。

 一つの飴玉を頬張る事により二人の抑圧してきた欲求は限界を突破しようとしていた。


「なぁ……」

「……何さ」

「カレーが食べたい」

「良しそこに座れ。この野郎よりにもよって薫り高いカレーなんぞを望みおってからにっ!! 想像しちまったじゃないか!! どうしてくれる!?」

「うごっ?! ちょ、タンマ、首はマズイ!!」


 余程頭に来ているのか、タクトはケンジの首を絞めながら前後に揺さぶり始める。


「……まあいいさ。愚痴っても仕様がないから、今後一切調味料がたっぷりと使われた料理の話は禁止」

「解ったよ……」


 クソッ、と毒吐きながらケンジが橋を踏み鳴らす。

 こちらも相当頭に来ている様だ。

 その様子に一つ溜息を零し、タクトは魔法の練習を始めた。


「――――集え」


 一言。

 命令を出す様に呟いた言葉の後にタクトの掌へ光が収束する。

 それはスライムの魔法を再現しようとして失敗した時とは比べ物に成らない程のスピードだった。

 三日間の一定時間ずつ行っていた魔法の練習の成果である。

 タクトは己が魔法を使う際に、魔法と言えば必須であろう呪文を唱えていない事に気が付いた。

 そしていくつか己で呪文を製作し実験を重ねる。

 タクトが作った呪文は大きく分けて三種類。祈願、依頼、命令である。

 その中でもタクトは命令の呪文と相性が良かったため、以降命令口調の呪文を唱える事と成る。


「本当に上達したよな、魔法」

「そういうケンジだって。何? あの速さ。まるで眼に見えなかったんだけど」

「いや、どうにもあの蛇喰ってから調子良くってな?」


 力を付けているのはタクトだけではなかった。

 ケンジは己の身体能力が大幅な上昇を見せている事に戸惑いを覚えていた。

 一瞬で約10mの距離を跳躍する脚、硬化することにより重量を増したスライムボールを200m先へ一瞬で投擲する腕力等、大凡常人離れした機能を獲得していたのだ。

 ケンジは己が何時の間にか化物にでもなってしまったのではと不安の種が増える思いであった。


「案外あの蛇は、蛇の姿をしたドラゴンだったりして」

「すると何か? 竜肉喰ってパワーアップか? んな神話じゃあるまいし」


 タクトの冗談に二人は大いに笑った。

 後日笑い事じゃないと焦る事に成るとも知らずに。



 

 それから一週間の旅路を経て、二人は湿原を抜けた。

 湿原の先には再び大草原が広がる。

 蒼く澄み渡った晴天の下で風が躍り草花が揺れていた。


「ふぅ、ようやく新しい景色をお目に掛かれたな」

「まったくだ。けどここからは注意が必要に成るなんてったって、水源が無いんだから」


 二人は草原を歩く。

 ストレスは着実に溜まっているが、それも許容範囲内であり足を止める理由にはならない。


「ん」

「どうした?」

「遠くに何か見える。大きい影だ、ってか眼まで良くなってらぁ」

「よっ、原住民」

「お前なぁ……」


 ケンジは遥か彼方に揺らめく影へ目を凝らす。

 揺らめく影の輪郭は徐々に整頓されその像を浮かび上がらせる。

 ケンジの目に見えたそれは、石の壁だった。


「っ、タクト!! 街が見えた!!」

「なにっ、どれくらいの距離!?」

「まて!! ……俺には解らん。すっごい遠く」

「ああ、うん。期待した俺が馬鹿だった……」


 けれど、と俯いた顔を上げタクトは笑う。


「文字通り、希望が見えたってね」

「ああ。一先ず休憩できる可能性が高いわけだ」

「うん。……行こう」

「応!!」


 二人の身体に活力が漲る。

 踏み出す脚は力強く、生命力に満ち溢れ、放浪者と言うのが躊躇われる程だ。

 歩く脚は心なしか早足に成る。

 早く、速くと心が急かすのだ。


 そして、大きな影が二人の頭上を通過した。


「――――――――」

「――――――――」


 見上げた二人が言葉を失う。

 大空を優雅に飛び回るその存在に目を奪われ、そしてその大きさに恐れ戦いた。

 その名はあまりにも有名すぎた。

 数々の冒険に登場し異形の頂点に立つ存在。


「――――ドラ、ゴン」


 タクトの口からその名が零れた。

 全長10m程度のそれは、二人の頭上を旋回している。

 しかし肌に感じる敵意が二人に対し己は安全ではないという認識を持たせる。

 だが、それで思考を放棄する程、二人は成長できない存在ではなかった。

 ケンジが硬直する身体に喝を入れ視線を動かす。

 左右に振り、隠れる場所、または逃げ込める場所を探す。

 街へ行くという選択肢はない。

 己らが助かれど、街には甚大な被害が及ぶと容易に想像できるからだ。

 現状の二人は街にとっての災厄でしかなく、折角安住の地になる可能性のあった街の住民から悪感情を得るのは最後の手段としたかったのだ。

 泳ぐ視線に有る物が映る。

 森だ。

 街よりも若干遠いが後代に広がっており木々の背も高い。

 ドラゴンから逃げるならばこれ程適した場所もあるまいとケンジは考え、そしてタクトへ問う。


「……森を見つけた。街より若干遠いがどうせ同じだ。お前の魔法でアレから逃げられるか?」

「……今丁度考えていた所さ。考えは纏まった、逃げられる。僕に従え、いつも通り行くぞ」


 タクトは不敵な笑みを以て返答を行う。

 その笑顔を見てケンジは安心した。


「どうする?」

「まずは一直線。振り向かずに走れ。僕もそうする」

「解った」

「じゃあ、行くよ?」


 合図と共に二人は駆け出した。

 旋回していたドラゴンがそれに気付き追跡を開始する。

 上空に離れていたドラゴンは高度を落とし始める。

 それを感じ取り、タクトは足を止めた。


「タクト!?」

「構わず行け!!」


 止まろうとしたケンジに叫ぶ。

 ケンジはそれに従い、スピード若干落としながらも脚を止めない。

 タクトとドラゴンの距離が最初の半分以上に縮まる。

 振り向いたタクトは手をドラゴンへと向け呪文を唱えた。


「――――集い、弾け、眼を潰せッ!!」


 ドラゴンとタクトの直線状に光弾が出現し、かと思ったら途端に爆ぜた。

 強烈な光が辺りに拡散し、それはドラゴンの眼を焼いた。


「――――!?」


 突如視界を焼かれたドラゴンは混乱のままに地上へと落下する。

 減速せずに降下していた為にその速度はかなりのモノだ。

 ゴキリ、と鈍く大きな音が響いた。


「タクト!!」

「今行く、休むな!!」


 魔法の発動後、タクトはドラゴンの方を見ずに走っていた。

 己の眼を焼く訳にも行かず、ドラゴンの死体を調べる時間が惜しいからだ。

 タクトはドラゴンが落下程度で死ぬとは思っていない。

 精々翼が折れて跳べなくなる程度だと予測する。

 故に走る。

 脇目も振らずに足が壊れるのも厭わずに。


 ふと前方を見ると、ケンジが逆走しタクトの方へと向かっていた。


「馬鹿!! なにやって……」

「こっちの方が速ぇ!!」


 ケンジがタクトを荷物の様に担ぎ走り始める。

 駆動する脚は元居た場所を遠くへ置き去りにするかの様に大地を蹴り、猛スピードで森を目指す。

 やがて二人は森へ辿り着く。

 その遥か後方で、翼の折れたドラゴンが痛みに悶え苦しんでいた。



「ハァ、ハァ、ハァ。……い、きて、る?」

「ハァ、ハァ。……んくっ。ああ、生きてるさ」


 森の木に背を預け二人は後方を見た。

 ドラゴンは見えない。


「もう、無理……」

「僕も……」


 二人はその場に崩れ落ちた。

 緊張の糸が途切れ身体に力が入らないのだ。

 だがその場は何が出るかも解らない森という道の領域である。


「……移動、するよ?」

「……おう」


 故に二人は疲労した身体に鞭を打ち這うように起き上がった。

 そして森の奥へと進む。

 希望を目の前で掻っ攫われた二人の足の動きは鈍い。


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