99章目 公楽
「残されたのは、君らか」
車椅子だった。
乗っているのは、俺は見たことがない初老の男性だった。
「あなたは」
車椅子は動力があるように見えないのに、自らの意志で動いているように見える。
男性が来ている服は、お土産物で喜ばれそうな、このサービスエリアの名前がでかでかと書かれたものだった。
「公楽だよ、君らなら知っているだろう。KLSの伝説というものを」
「ええ、聞いたことはありますが……」
そのKLS伝説の最後の一人、その人が今まさに目の前にいるという事実が、本当かどうかという意識を生み出す。
「その住所、行きたいのだろ。アナムネーシスから話は聞いた」
公楽が俺らに言うが、当のエリーゼはいない。
「まだ言ってないけど、どうして知ってるの」
「おや、お嬢ちゃん。警戒しているのかね」
何やらヒャヒャと笑い、写真を見せてくれる。
「おぬしらが何をしているのかは、彼らから聞いているのだよ。その住所、行きたいのであろう。どうせ他にこれらの謎を解く手がかりになりそうなのは、ないからな」
「……よくご存じで。まるであなたが何か手を出したように」
「おや、まだこちらは手を出してはおらんぞ。今はまだな」
間違いなく、この住所へと行くのは罠だ。
しかし、沢郎さんらがいない今、ここに行くこと以外の選択肢は、事実上ない。
「それで、行くのかえ、行かんのかえ。ま、儂としてはどちらでもよいがな」
「行くしかないでしょう」
澤留がはっきりという。
そしてビシッと公楽へと指す。
「沢郎さんらをあなたがどこかへと隠したのならば、それを見つけないと。そのうえで、貴方を叱ってあげるわ」
「おやおや怖いねぇ。まあ、急ぎたまえよ。この星を守りたいのであればな」
公楽がパンパンと両手で柏手を打つと、どこからか車が一台、玄関先へとスイィとやってきた。
「あれに乗るがよい。若人よ。その苦難に、災いに、幸多らんことを」
もはや、この人が何をしたいのか理解できない。
しかし、道はない。
公楽が用意した車に乗り込むと、一つ問題があった。
「運転の仕方知ってるか?」
澤留へと聞くと、代わりに後ろから声が聞こえた。
「私が運転をします」
エリーゼが、いつの間にか乗り込んでいた。
澤留はエリーゼとの再会を喜びつつ、助手席でシートベルトを着ける。
俺は運転席に座り、シートベルトを着けると、エリーゼが車を動かし始めた。