94章目 コーヒー
澤留は、俺が買ったキーホルダーを眺めつつ、何やらにやにやしている。
買った後、俺らが立ち寄ったのはカフェだった。
廊下にテーブルやいすが置かれていて、陶器でできたコップで飲むことができる。
さらに、サンドイッチや簡単な軽食もセットで食べられるようになっていた。
「アメリカンコーヒー、ミニマム」
どうにか読み取れたメニューで俺はたどたどしく注文する。
無愛想にコーヒーを陶器のマグに入れ、ミルクはあっちと言わんばかりに指差した。
どうも、と日本語で答えると、そそくさと移動する。
「キャラメルマキアート、ラージ、プリーズ」
カタカナ発音ではあるが、それでも堂々としているのは、さすがと思ってしまう。
澤留も注文が終わり、品物を持ってきて席に座った。
のんびりと通路を眺めると、ここが火星だということを忘れそうになる。
ただ、地球は行ったことがないから、今どうなっているかはわからない。
「地球って、どうなってるのかな」
「どうした藪から棒に」
急な発言で、俺は飲みかけたコーヒーをテーブルに置いた。
「いや、自由研究でこうやって来たけど、私たちまだまだ知らないことだらけなんだなぁって。だとしたら、全ドーム制覇してから次行くのはきっと地球だろうなって思ったの」
「アリだな。そんときには一緒に行ってやるよ」
惑星間飛行は、定期船以外にない。
それもほとんど来なくなった。
たまに来ても、人の出入りは全くない。
ただ、乗船許可証を手に入れれば、行くことはできるはずだ。
それを楽しみにしておこう。
ちなみに、コーヒーはあまり美味しくなかった。