9章目 ここからが本番
旅に出る当日。
荷物の確認を終えると、すでに家の前には澤留がリュックを背負って待っていた。
「遅い!」
「まだ沢朗さん達も来てないじゃないか」
「だって、興奮するじゃない。誰もいない火星の大地を走れるんだよ。すごいことでしょ」
「まあな。空気が薄いからボンベも多少は持っていかないといけないし、それに正確な地図もあまりないから、どう考えても大変なことになるのは目に見えているがな」
「それも旅の魅力でしょ」
全部を楽しもうとしているかのように、澤留が俺に向かって言いきった。
「まあ、好きにすればいいさ」
ドアはオートロック式だから、俺が鍵を締めることはない。
鍵だって、金属でできて、針金で開くようなものじゃなくて、指紋、声紋、瞳孔認証の3つを全て15秒以内にクリアする必要がある。
だから、俺は鍵をもったことがない。
10分ほどすると、沢朗さんと嬉子さんが仲良くやってきた。
俺は、玄関にもたれていたが、二人を見ると、すぐに近寄った。
澤留も同じ感じだった。
「やあ、待ったかい?」
「いいえ、今出て来たところです」
まるでダブルデートのような感じになったが、澤留はそのことに気づきもしていないようだ。
「バギーや必要なものは外にあるから。そこまで案内するよ」
沢朗さんがそう言って、ドームの端を指さした。
といっても、全周どこへ向かおうと、一直線に歩き続ければ必ず端にぶつかることになるが。
沢朗さんが案内したのは第1段階だった。
「ここからだったら、一番早く外に出られるからね」
そう言って、酸素マスクと背負うタイプのボンベを俺たちに渡してきた。
「最新版だから大丈夫。普通に使えるよ」
沢朗さんは、そう言って、俺たちに装着の仕方を教えてくれた。
「よし、付けたね。じゃあ外にあるから出ようか」
「私服でいいんですか」
「ああ大丈夫。バギーは防塵機能、カバー付き6人乗りだから」
マスクを着けているから、多少声がくぐもって聞こえているが、それでも十分だ。
嬉子さんがすでに扉のスイッチのところにいて、何かを押して外へ通じる扉を開けてくれた。