3章目 第1段階
第1期の建物へ到着すると、俺たちを置いて、真っ先に澤留が駆けだした。
「こけるなよー」
俺の言葉も、届いたかどうかわからない。
だが、こけたような音がこちらまで響いてこないところをみると、ちゃんと走って行っているようだ。
俺たちは、そんな澤留をゆっくりと追いかけながら話してあっていた。
「ここに来るのも久しぶりです」
「本当かい?自分たちは、昔からここにはよく来てるからね」
沢朗さんは、感慨深げに話していた。
電気もしっかり付いているおかげで、足もとも周りも、ばっちり見えた。
「ここの保守点検も、しっかり行われているみたいだし。私がここの点検作業から異動された後も、ちゃんとしてるみたいだね」
嬉子さんは、昔を思い出しているような表情で、足を止めながら言った。
「ねえちょっとー!」
澤留の声が、どこからか聞こえてきた。
「何か見つけたのか!」
俺は叫び返す。
「昔のロボットみたいなのー。これって、お金になるかなー?」
「ロボット?」
澤留の声に、沢朗さんと嬉子さんは聞き返した。
「今どこにいるんだ」
「北側の、なんか部屋がいっぱいあるところー」
「寝室だな」
沢郎さんが言うと、すぐにかけ出した。
「寝室って?」
「第1段階では、今のような家じゃなくて、全体が家だと思えばいいかな。そして、それぞれの部屋は、いろんな役割があった。今じゃ使われてないけどね」
「火星で重要なのは、設置するよりもあとの保守よ。空気が漏れたら最後だからね」
嬉子さんが、沢郎さんの言葉を継ぐ。
「やっときた」
澤留がスポットライトのように光を浴びながら、金属の塊の横に立っていた。
「こいつが、ロボットなのか?」
「パッと見そう感じたんだけど」
「どうだろ、直せるかな…」
俺がロボットの本体であろう筒状のところのネジを開けると、中の配線を確認した。
「ここじゃ難しいな…」
「そう?」
澤留が俺の横で中をじっくりと見ている。
「家に帰れば、多分できると思います」
「じゃあ、持っていこう」
沢朗さんが嬉子さんと一緒にうなづきながら言った。
「動かなかったら、部品屋に売ればいい金額のお金になるでしょうね」
嬉子さんがそう言って、俺に背負わせた。
「なんで俺が……」
俺が背負いながら言うと、前を歩いている嬉子さんが振り向いて言った。
「あら、女の子に重たいの持たせるの?」
「そうよ、女の子なのよ」
嬉子さんの横にいる澤留も合わせて振り返って言う。
「こんなときだけ…」
俺はそこまで言ったが、その後のことを考えて口をつぐんだ。
横に歩いている沢朗さんが、その時ぽつりと言う。
「それにしても、なんでこんなロボットが落ちてたんだろう。あの辺りは週に1回は掃除が入るから、無いほうが当然なのに…」