2章目 ドーム
翌日、俺はドームの東端にある扉の前にいた。
そもそも、入植には3段階あり、第1段階としては学校で必ず習う伝説の3人という存在がいる。
公楽、ライトメイヤー、スーザンの3人の頭文字をとってKLSとも呼ばれる3人は、人類史上初めて、火星に永住したとされている。
しかし、彼らの墓は存在しておらず、この火星のどこかにまだ生きているという都市伝説が生まれた。
その3人の後を追うように、第1段階の入植期は始まった。
第1段階は、とにかく火星に永住することのみを目的としており、かまぼこ状の居住スペースにより住み始めた。
火星にある資源を使える状態ではなく、すべての資源は地球より運んでいたとされる。
しかし、その状況は資源発掘用の機械を地球より持ち込んだことによって終了する。
この段階を第2段階とし、低層建築物を自力で作ることができるようになった。
このころに、第1段階で入植した人たちの子供が生まれだし、第2段階とは子供の世代ともいわれる。
ここまでは、建物の外に出る際には宇宙服を着なければならず、かなり不自由をしていたと伝わっている。
だが、第3段階に入り、ドームが作られた。
これは、一つの都市を丸ごと作り上げ、そこに強化プラスチックで作られた半透明のソーラーパネルを付けたドームをかぶせることにより、建物の外にも自由に出れるようにしたのだ。
ちなみに、火星表面上には6つのドームがあり、それぞれに名前が付いている。
俺たちがいるドームの名前はアセスルファムで、ASと略すことになっているが、大概はそのまま言う。
さらに、第3段階から第1段階まで全て通じていて、特に第3段階と第2段階の間にある扉は、時間制限こそあれど、それ以外は好きなように行き来ができるようになっていた。
その結果、第1段階の施設群は、子供の遊び場になっていたり、沢朗さんのように小銭稼ぎの場所になっていたりしている。
今回、俺たちが行くところは、このドームからみて東へ50km進んだところにある第1段階だ。
そこは、このドームの設置の礎ともなった場所で、2番目に創られた永住施設でもあった。
「遅いぞー」
「遅いって、沢朗さんも来てないじゃない」
軽装でやってきた澤留が、俺の次にやってきた。
「沢朗さんたちは、これから行くところの地図を持ってきてくれるんだって。それでちょっと遅れるそうだ」
「なるほどね」
澤留は、俺の横に並んで立ちながら言った。
周りには、子供たちが第2段階へ向かって元気に駆けって行っているところだった。
10分ほどしたら、沢朗さんが奥さんを連れてやってきた。
「やあ、もう来てたか」
「沢朗さん、嬉子さん、こんにちは」
俺たちは、ほとんど同時に言った。
「妻も一緒に言ってもいいだろ?」
「もちろんですよ」
俺はそう言って、嬉子さんに聞いた。
「第1期には詳しいんですか」
「ええ、あの辺りの電気系統は、よく故障してね。駆り出されたものよ」
昔を懐かしがっている声で言った。
「電気技術士でしたよね」
澤留が嬉子さんに言った。
「そうそう、あの辺りの話は文字通り山のようにあるわよ」
「それは、道中聞きながらということにして、そろそろ行かないか」
沢朗さんが言うと、沢朗さんを先頭にして歩き始めた。