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13章目 本当のこと

俺たちは、エリーゼが言ったことが信じられなかった。

「この方が、ラストメイヤーさん…?」

澤留も、いつもの元気はなく、怪しい目でエリーゼに聞いた。

「ええ、DNAデータを取得できれば、すぐに判明します」

それを聞いて、俺は持っていたハサミで彼の爪を切り、それをエリーゼの手に渡す。

センサーがいくつか動いて、調べること1分足らず。

「確認しました。たしかにライトメイヤーさん、その人です」

俺たちはそのことを聞いた時、改めて信じられなかった。

「でも、ライトメイヤーさんなら、なんでこんなに若く見えるの。第一世代のはずだから、もう百年も昔でしょ」

澤留が下で裾がかなり汚れているズボンをはいて震えている人を見ながら聞いた。

「おぬしらは、何も知らない…俺が何者かさえな」

「どういうことだ」

「おぬしらは、どんな教育を受けているかは、俺は知らん。知るつもりもない。だが、俺について、どんなふうに教わっているのかが気になる」

「えっと、火星植民の最初の3人である公楽、ライトメイヤー、スーザンは、火星植民の歴史で必ず出てくるの。それで、史上初めての植民を達成した彼らを倣って、植民を開始。それから、火星は第3世代へと移行し、現在では地球から独立して生計を立てることが可能となった」

「それは大いなる間違いだ…こっちへ来い。本当の歴史を教えてやろう…」

ライトメイヤーは、カッターもヨロヨロになっていて、立つと不思議なことに、左腕に何かつけていたかのような跡がくっきりと見えた。


俺たちを連れてきたのは、大きなディスプレイの前だ。

「いいか、これが本当の歴史だ。公楽が消し去ったすべての歴史が詰まっている…」

ディスプレイをつけると、唐突に写真が映った。

「この3人が…」

俺がつぶやくと、ライトメイヤーが答える。

「そうだ、俺ら3人組だ」

だが、その服装を見ると、囚人服のように見える。

「どうしてこんな服装を」

「第4次国際戦争によって、世界は疲弊しつくした。これ以上ないほどにな。国際市場は崩壊し、国は中に閉じこもり、鎖国やブロック経済が状態化した。そして、それで幸せだった。だが、人は再び外を目指した。新たな資源、新たな命。こうして、独立国となっていた月面共和国と初めに3極が国交を正常化した。それから、堰を切ったように次々と国がつくと協定や国交を結んだ。これが、すべての始まりだ」

「3極…?」

澤留が言った。

ライトメイヤーは、天を仰いで言い続けた。

「嘆かわしや、それすら教えてもらっていないのか。3極というのは当時の最先進国と呼ばれており、国際情勢を左右し、グループの長たる3つの国の総称だ。日本皇国、北米条約連合、欧州連盟。この3つのことだ。俺は北米条約連合の出身、スーザンは欧州連盟の出身、公楽は日本皇国の出身だ。俺らが出合ったのは、この戦争が終結してから10年後、俺がまだ20そこそこの時だった。ほかの2人も似たような年齢でな、出会ったきっかけは、どうでもいい。ただ、出会うべくして出会ったといっておこう」

それから、ライトメイヤーは写真を変える。

今度の写真は、荒廃しきったどこかの都市のようだ。

「刑務所から脱獄した俺たちは、名も忘れられた都市で、3人でタッグを組んで何でも屋をしていた。殺人請負、工作員調達、ロボット修理。それこそなんでもな。だが、それも、軍がこの都市を制圧したことによって終わりを迎えた。再びとらえられたおれたちは、別々の刑務所に入ったが、通信手段なら、いくらでもあった。だから、俺たちはなんでも知り合うことができた。そのさなか、火星へ飛ばすための人を募集しているということをうわさで聞いた。必要なのはロボットの工作技師。俺達3人ならうってつけだろうということで、刑務所長に申し出た。すぐに審査が始まった」

さらに写真が変わり、今度はスペースシャトルをバックの記念撮影のようだ。

「これが地球で撮った最後の写真だ。刑務所から出られて俺たちは再び出会った。これこそ奇跡みたいなものさ。そして、宇宙空間で生活をするための訓練が始まった。そう、ざっと1年程度だったか。俺たちは囚人としてそこにいた。だから、自由はほぼなかったが、3人まとめて同じ部屋に入れたから、別にかまわなかった。そして、最後に火星へは片道の旅だということも教えてもらった。もとより覚悟の上だ。気にすることはなかった」

宇宙空間に出て、無重力を楽しんでいるように見えるライトメイヤーが、写真に映った。

「そして、連れてこられてから1年半後、俺たちは別の仲間とともに、宇宙空間へと打ち上げられた。火星へ行くためには最適な経路が存在する。そのあたりは自動で計算してくれる便利なコンピューターがあったから、気にする必要はなかった。火星へは3チーム派遣されることになっていた。俺たちは3人で1チーム、ほかは4人で1チームとなっていた。到着したのは1年弱後となる。3チーム全員が無事に火星へ到着したという報告を無線傍受で聞いた」

火星の夕焼けが美しく見える。

写真に映っている女性は、きっとスーザンなのだろう。

「当時の火星には、何もなかった。赤い大地が延々と続いているだけの、不毛な土地だ。俺たちは着陸地点を中心に、建物を建設し始めた。初めから地球からの物資などはなかった。だから、火星であるものをどうにかして使うしかなかった」

掘削機を使い、鉄を取り出そうとしているライトメイヤーともう一人の男。

この男こそ公楽と呼ばれる男であると、俺は確信をした。

「そのうち、ほかのチームが俺らのところへ来た。物資がほしいとな。だが、俺は断った。俺らの分でも1年食いつなげられるかどうかわからなかったからだ。だが、彼らは食い下がった。だから、俺は相手を一発どついた。それがきっかけで大ゲンカとなり、向こうのチームは全滅した。残るは俺らのチームだけだ。彼らの物資は極限まで使われており、どこにも使えそうなものはなかった。だが、宇宙船自体は使えそうだったので、俺らはそれを半分埋めて固定し、砂嵐にも耐えられるような構造とした。酸素は光があればどこでも育つような葉緑素の塊を使って調達。これで、生活するめどは立った」

さらに写真を変える。

今度は薄暗い部屋の中でロボットを作っている写真だ。

「地球からの物資は来なかったが、人なら来た。俺らの成功を見て、やってきた人たちだ。これがおぬしらがいう第1世代に当たる人らだろう。こうして、火星植民は成功したが、俺たちは、囚人だということだけで迫害を受けた。ここは、その時に待避所として使っていた遺構だ。なぜ俺が老化が進まないかは知らない、だが、この旅の途中で、二人とは離れてしまった。これが、全てだ」

ディスプレイは真っ暗になり、そしてライトメイヤーの泣き顔だけがぼんやりと映っていた。



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