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113章目 無事に
「おはよう、二人とも」
「おはようございます、沢郎さん」
俺らが今いるのは、スクラロースと呼ばれるドームだった。
ここが最後のドームになる。
アセスルファムを出発し、グルコン、ピロリン、アルギニン、シトルリンときて、とうとう最後まで来た。
夏休みの宿題ということで、各ドームをめぐってきた旅も、ようやくこれで最後だ。
欧州連盟所属だったドームを案内してくれた人に別れを告げると、沢郎さんが俺たちに言った。
「それじゃあ、帰ろうか」
バギーカーに乗り込んで、一緒に帰る。
乗り込むとき、なにか忘れているような気がした。
「……どうした?」
「あ、いえ。何でもないです」
沢郎さんが言ってくれるのに、俺は答える。
1か月半かけて1執するという大冒険も終わろうとしている。
それで、何かを忘れているような、郷愁にかられるような、そんな不思議な気分にさせてくれるのだろう。
沢郎さんに、その奥さんである嬉子さん、それに同級生で幼馴染の澤留。
この4人で旅をしてきた。
でも、誰かを、何かを忘れているような気がする。
それでもバギーはドームの第1段階から火星の大地へと出発した。