106章目 オメガ
「オメガってなに?!」
耳を抑えながらも澤留が聞いた。
だが返事はしてくれない。
「どうせろくでもないことだよっ」
叫びながら俺が澤留の腕をつかむ。
「逃がさないよ」
パンと手を叩き、ここに入ってきたドアはバタンと勢いよく何かが掛かる音とともにしまった。
「……どうやら逃げられないようだね」
ドアをバンバンと叩いてもびくともしない。
あとは彼らへと視線を戻す。
「さて、オメガ、というのは古代地球で使われていた文字の一つさ。最後を意味する言葉さ。つまり、最終作戦といったところかな」
ライトメイヤーが教えてくれる。
「テラフォーミング計画オメガ。破棄されたはずの最終計画。核を使ってのテラフォーミングさ。だが、それに僕らなりの修正を加えた」
「修正って?!」
澤留がさらに音が激しさを増していくサーバールームのなかで叫んだ。
「地球は、もう火星にとっては不要な星だ。ならば滅ぼしても構いはするまい。我々だけで時給ができるのであれば、このような境遇へと追いやった者らはさっさと殺すのがいい」
「もしかして、火星から地球へと核を撃ち込ませるつもりか」
「大正解だよ、少年。だが、気づいたとしてももう遅い」
突然、壁の一部に映像が映し出される。
外の映像だと気づいたときには、何かが撃ちあがっていくのが見える程度だった。
「あれは……」
音は再び静かになりつつある。
会話もどうにかしっかりとできるようになった。
「核ミサイル、地球のやつらが不要として、しかし解体することもなく、火星へと残した遺物さ。火星のドームを作った三極こと日本皇国、北米条約連合、欧州連盟は、欧亜連邦と共同して火星へと核ミサイルを運搬した。名目上はテラフォーミング計画のためだったわけだがな。真相は、それぞれが戦争状態へと突入した際、核攻撃をすることが可能にするための保険だよ。だからそれぞれが全くばらばらに核の保存のための装置を作り、司令ひとつで地球に向けて打ち込めるようにした。戦争がそれほど短期間で終わるとは考えられなかったから、片道3か月でも十分時間があると考えたんだろうな」
撃ちあがった火の玉の一部が剥がれ落ちていくのが見える。
多段ロケットのようだ。
「今回、それを使わせてもらっただけさ。彼らも忘れているだろう100年も昔の遺物を、こうやってしっぺ返しを食らうなんて、想像もつかないだろうがな」
「そんな、とてつもない人数の人が死ぬんですよ。それこそ無関係の人まで。それでも平気なんですか」
澤留がライトメイヤーに叫んだ。
「平気かどうか、といえば。そんな感覚はないな。彼らは罪を犯した、僕らを裁いた、だから僕も彼らを裁く。ああ、安心したまえ。地球がこちらに攻撃を仕掛けたとしても、今回打ち上げた数の何十倍、何千倍という核がまだ貯蔵されている。我々が死ぬことはない。あっても相打ちになるだろう」
ライトメイヤーは言いつつ、笑っていた。
その笑顔はいやに怖く感じるほどだった。