105章目 テラフォーミング計画
「そんな物動かして、どうするつもり?」
澤留が、彼らに聞いた。
「テラフォーミングには複数の方法が考えられた。結局、計画倒れしたがね。そして、そのうちの一つが、核を撃ち込むことだった」
「核って、原子爆弾のこと?」
ライトメイヤーの言葉に、思わず澤留が聞き返す。
歴史でしか聞いたことがないような言葉に、俺だって驚いた。
「そうだ、数秒ごとに火星の極地域で核爆発を起こすことによって、二酸化炭素濃度を急激に上昇させ、その結果、温室効果を高めるという計画だったらしい。ほかにもさまざまなことが言われていたが、火星全域を一気に地球のようにするということは不可能だった。そう結論が出された。100年も昔のことだがな。しかし、万一可能となった場合に備え、この火星にはあちこちに核爆弾が隠された。使われなければそれまでだろうがな。100年も経てば、知っている者は死んでいる、そう当時の地球の政治家らは考えた。今や、連絡が全くない地球の政治家らがな」
「……その核爆発を起こすための計算機、そのシステムもこのエルゴの中に入っていた。そういうことか」
「ご名答。そのシステムをみつけるために、しばらく時間がかかったがね。俺らがそのための鍵を探していた。見つけたと思ったときには、6つのドームが造られ、それぞれの管理AIとしてエルゴが機能するようになっていた。当時は、ここにもたくさんの人が出入りしていたのだよ。今や考えられないだろうがね。無人になって幾久しいからな」
実際、入ったときには電気が消えていた。
何年も、下手をすれば何十年も誰かが来たという話はないことだろう。
「そのうえで、エルゴは各ドームの管理AIとしての機能も徐々にではあったがなくしていっていた。そのころになると、俺らはバラバラになり、出会うことはなかった。そこで、アナムネーシスに鍵となるものを託すということを考え付いた。フロッピーディスクは、それにうってつけだった。なにせ、今となれば誰も解読できないほどの骨董品だからな。だが、俺にはあちこちのドームで犯罪を犯し、逃げ続ける日々、アナムネーシスを俺が動かし続けることは、危険極まりないことだった。そこで、適当なドーム、君らのドームだな、そこに隠し、時機を見て復帰させる計画だった。その前に、君らが見つけたのだがね。旅に誘われたのは少々想定外だったが、何十年も経てばシステムも変わっていたようだ。おかげで物事は簡単に進んだよ」
「すべてはこのためにあった、そういうことですか」
アナムネーシスことエリーゼは、エルゴ本体に近づき、そして腕を伸ばして端子をつなげた。
瞬時にすべてのサーバーが動き出し、けたたましい警報音が鳴り響いた。
「テラフォーミング計画オメガ、起動。承認コード、地球連合大統領コウラク・ライトメイヤー・スーザン」
合成音声をエリーゼが出し、それが承認されたことを告げた。