104章目 巨大
「お久しぶり」
真っ暗の部屋で俺らへ声が掛けられる。
少しだけ間が空き、パッと電気が付いた。
眩しさで、反射的に目を覆う。
誰だ、と名前を言わなくても、誰かということは分かった。
「ライトメイヤーさん、これはどういうことなんですか」
俺はその声の主へと尋ねる。
真っ先に思ったのは、沢郎さんたちの安否だ。
「沢郎さんたちは無事なんでしょうね」
さっきの言葉に続いて、俺はさらに言った。
「彼らは無事だ。催眠状態にあって、今は意識はないがね」
「それよりも、早く始めてしまいましょ」
女性の声、彼女は間違いなくスーザンだ。
いよいよ俺らも目が慣れてきて、ここが何かを知ることができるようになった。
巨大なコンピュータが、部屋の大半を占める部屋。
まるで、学校で見た、昔の地球のサーバー室にそっくりだ。
「そうだな、パーツは揃った」
俺らの背中からの声は、こうなるとただ一人、公楽だろう。
「アナムネーシス、こっちへおいで」
ライトメイヤーが、エリーゼの本名を言う。
すると、エリーゼは、スルスルと彼の元へと動いた。
「一体、何をするつもりで……」
俺の言葉は、ライトメイヤーの言葉に遮られる。
「君らは、エルゴと呼ばれるAIの都市伝説を聞いたことがあるだろう。今ではゆるくなってしまったが、昔はドームごとにある管理AIも、互いに密接に通信をしていた。だが、このエルゴだけは違う。入植時、この設備は、あったかもしれない未来のために作られた。火星を地球のように改造する計画、つまりテラフォーミング計画のためだ。だが、結局されることはなく、設備だけが残された。この計画、実は地球の科学者が作ったものだったらしくてな、すっかりとこの火星の大気や重力といった物理的要素を忘れていたようだ。そして、各ドームのAIは、それぞれの都市を構成し、火星統治の基盤となる予定だった。しかし、テラフォーミング計画が破棄され、結局このサーバー群は使われることはなくなった」
「じゃあ今見ているこのコンピュータたちは」
「そう、使われなくなったが、今はこうして僕たちのために働いてもらっているものらさ」
ゴウンと何かの音が、部屋に響いていった。