1章目 部活動
火星へ植民がはじまってから100年。
第3世代という、最初に植民を果たした人達から見て孫の世代になる子供たちが育っていた。
「…それで?」
火星の永住施設であるドームの一つ、アセスルファムにある第2高校のPC部の部室中で、女子に詰問されている俺がいた。
この女子は、澤留香内と言って、この部活で俺以外の唯一の部員だった。
「…予算は削減だって」
「どーするのよ、これ以上減らされて。ただでさえキツキツだっていうのに」
部費は全額高校側からの支給と校則で決められていて、俺たちが勝手に支出することはできないことになっていた。
もしも部費以外を支出して学校側に経費として認めてもらう場合は、煩雑な手続きを経る必要があったため、大概の時は、自腹となっていた。
それが高校生の身からすれば相当な重圧になるため、できるだけ避けたかった。
「…まあ、3000円で頑張るしか…」
俺が言うと、ヤンヤヤンヤ言い返してきた。
「あー、ハイハイ。後でじっくり聞いてやるから、今は黙っていてくれるか」
俺はそう言って、澤留を黙らそうとした。
しかし、火に油を注ぐ結果になってしまった。
30分間、ネチネチと言われ続けて、やっと顧問がやってきた瞬間をねらって、部屋から出た。
「ふぅー…」
俺が廊下に出て、やっと新鮮な空気を吸っていると、廊下の向こう側から誰か歩いてきた。
「やあ、今は部活の時間だろ」
「沢朗さん」
その人は、俺が住んでいる家のお隣さんの篠井沢朗だった。
「どうしたんですか。沢朗さん、仕事は…」
「ああ、この高校の校長先生とちょっとね。その話が終わったから、ちょっと様子を見に来たんだ」
「そうだったんですか」
「それより、なんで外にいるんだい」
「実は…」
俺は予算の減額の話をし、それを聞いた澤留の様子を言った。
「あっはっは、そりゃ災難だったね」
沢朗さんは、俺に笑って答えた。
「そうなんですよ。元々あまり予算を使っていなかったから、減額されたんだと思うんですけど」
「まあ、仕方ないことじゃないか。僕が高校生の時も似たような理由で減らされたからね」
「そうなんですか」
「そうそう。あの時も、部員から突き上げを食らったよ。僕は当時の会計担当だったからね」
「で、どうやって対処したんですか」
「第1期の遺構へ探検しに行ってね。いろいろ探しては質屋に流したんだよ。それで予算を作ったんだ。結構な額になったりするからね」
その時、部屋から声が聞こえてきた。
「それよ!」
澤留が俺たちがいる廊下へ飛び出してきた。
「入植の第1段階の時の建物のことを言ってるんですよね」
「ああ…そうだけど」
澤留の迫力にたじたじになっている沢朗さんに、澤留はさらに言い続ける。
「明日、空いてる?」
澤留が急に聞いてきた。
明日といえば土曜日で、何も予定は入っていなかったはずだ。
「じゃあ、決まりね!」
それから、さも当然という風に沢朗さんにも言う。
「沢朗さんも来てくれますよね」
有無を言わせないその眼に、沢朗さんもうなずくしかなかった。