私、聖女。いま、追放されそうな瀬戸際にいるの。
「メリサ・サンガー。お前を追放する」
あちゃー。
やっちまった。
私は大きなため息をついた。
「陛下、そんなこと言っていいんですかあ?私は1000年に一度しか現れないといわれている聖女。」
私の力によって、私が来るまで荒れていたこの国の耕地は豊かになった。しかし、未だ回復途上なので、ここで私がいなくなったら元に戻るだろう。
へーん。追放できるもんならしてみろや。
どや顔を作る。
「構わん。いい肥料が開発された。これなら聖女がいなくなっても土地が痩せて人々が餓えることはない。」
そんなばなな。
「神殿から、聖女の職務怠慢に関する報告が多数上がっている。」
くそう、加減ミスった。
いい感じに、クビにならない程度に調節して仕事サボるようにしてたのに。
やっちまったぜ。
とりあえずしらを切っておく。
「なんのことですかぁー。そんなことしてませんよぉ。敬虔なる神の信徒として誠実にお勤めを果たしてきたつもりです。そんな、そんな私を、不要になった途端厄介払いだなんて……。」
よよよよ、と泣きまねも忘れない。
「嘘つくな。朝は起きない、会議をすっぽかす、祈りの最中に居眠りをする。ちゃんと報告書に記載済みだ。」
ちっ、神殿長め。
お前のふさふさのお髭が実は付け髭だって国民にバラしてやろうか。あぁん。
神殿長にガンを飛ばしていると、陛下がごほんごほんと咳をした。
「陛下、お風邪ですか。風邪にはレモンと蜂蜜をお湯で溶いたのを飲むといいですよ。」
「お前は咳払いというものを知らんのか? 」
可哀想なものを見る目で見られた。
なぜだ。解せぬ。
「ひとつだけ追放を免れる条件がある。俺と結婚することだ。」
「いやです。」
「即答はさすがに傷つく。」
「嘘おっしゃい。分けてほしい鋼のメンタルランキング一位を飾る陛下が、そんなことで傷つくわけないじゃないですか。」
「ちっ、バレたか。というか、分けてほしい鋼のメンタルランキングってなんだ。聞いたことないぞそんなの。」
「憐れみを誘おうったってそうはいきませんからね。分けてほしい鋼のメンタルランキングは、私の独断と偏見によって国家中枢を司る人々のメンタルの強さを格付けしたものです。」
「嫌なランキングだな。」
「一位は陛下、最下位は宰相殿下の副官です。」
ああ……。と、陛下は納得した目つきになった。陛下はまたごほんと咳払いをした。
「とにかく、俺と結婚してくれ。聖女は王と結婚する慣わしなんだ。こちらとしては結婚してくれないとすごく困る。」
「絶対それ当人同士の相性悪いことありますよね。どうするんですかそういうときは。」
ちょっと陛下、目を逸らさないでもらっていいですか。
陛下。へいかぁー!
「まあ、とにかくいろいろ困るから俺と結婚してくれ。」
「お断りします。」
陛下はがっくりと肩を落とした。
「おい、これで101回目のプロポーズだぞ。そろそろ折れてくれてもいいんじゃないかと俺は思う。」
「え、いやです。」
陛下は会うたびにプロポーズしてくる。
一回目は、タキシード着て薔薇の花束持って神殿までやって来た。
丁重にお断りした。
二回目は、夜会でダイヤのネックレス持ってプロポーズしてきた。
優しくことわった。
五回目は、ひらひらのドレスを誂えて送ってきた。添えられていた手紙でプロポーズされた。
手紙ごと燃やした。
二十回目は、舞踏会で衆人環境の中でプロポーズされた。
陛下のふくらはぎを蹴って逃走した。
三十一回目は、ティアラを渡されてプロポーズされた。
有難いけど、聖女だからあんまりアクセサリーは要らないことを伝えてお断りした。
四十七回目は、討伐した魔物の毛皮と共にプロポーズされた。
毛皮は欲しいけど陛下は欲しくないと言ったら、陛下は溜め息をつきながら毛皮も持って帰ってしまった。
後日、ふわふわのカーペットに加工された毛皮が届いた。
五十八回目は、寝台が送られてきた。
気持ち悪かったのでスルーした。
六十九回目は、陛下の即位式のあとのパーティーでプロポーズされた。
たまたま側にいた宰相の副官の腕を掴んで「この人に惚れました! 」と言ったら、陛下が鬼の形相でその人を睨んだ。あまりに可哀想だったのですぐに解放してあげると、副官は真っ青になってふらつきながら人混みへ消えていった。
後日、宰相からやんわり苦言を呈された。
七十七回目は、庭園を贈られた。
好きな花を聞かれたのでスイートピーだと言ったら、いちめんスイートピーが咲く庭をくれた。全部で一万本植っているらしい。
私が独占していても仕方ないので、一般向けに無料で公開したらとても好評だった。
陛下に対する人々の心象を上げてやったのだ。ちょっとは褒めて感謝してほしい。
九十八回目は、「婚姻届」なるものを渡された。
神殿の書類に紛れていたので、危うくサインしそうになってしまった。なんでも、名前を書いたら婚姻関係になる契約書だそうだ。ちなみに、婚姻を結ぶには神の前で誓う必要があるだけで、契約書を巻く必要は全くない。
阿保め。使えないものを作ってどうするのだ。
どうせ私から言質を取りたかっただけだろう。
九十九回目は、結婚式の招待状が届いた。
私の周囲にはだいたいおじいちゃんしかいないので、あれ適齢期の知り合いいたっけ、と差出人の名を確認したら、陛下と自分の連名だった。
王宮に乗り込んで、陛下の前でびりびりに裂いて破片を顔に投げつけてやった。
百回目は、指輪を渡された。
綺麗な指輪なので受け取ったら、「結婚式はいつにしようか。」と言われた。「え、結婚はしませんよ。」と言ったら、頭を押さえながらふらふらと帰っていった。
陛下が廊下の壁にぶつかり跳ね返り帰ってゆくさまを、神殿付きのメイドがぎょっとした顔で見ていた。
そして、さっきのプロポーズが百一回目である。
「いまや、国民の間では陛下が何回目で諦めるのかの賭けが行われているとか。」
「やめてくれ。」陛下は顔を覆った。
「ちなみに、なぜ結婚がいやなのか理由を聞いても? 」
陛下は初めて私に断る理由を聞いた。
百一回あったプロポーズの中で初である。
「陛下と結婚したら王宮に住むんでしょ? 」
「そうなる。」
「王宮の食事のパンはカピカピだし、お風呂のお湯は冷たいし、なぜか勝手にドアが閉まって開かなくなったりするんですよ。」
「ん? 」
「ああ王宮ってこんなもんなんだなー、と思って。王宮に憧れる女の子たちに王宮の現実を教えてあげたいです。神殿のほうが暮らしやすいですね。」
「いや、ちょっとまって。」
「だから、王宮に入らなきゃいけない陛下との結婚は、絶対に嫌なんです。」
「まさかお前、王宮は全人類に対してそうだと思っていたのか。」
「だから、王宮で暮らしてる陛下は可哀想だなーって。」
「おい、人の話をきけ。問に答えろ。普通はパンはカピカピじゃないしお湯はあったかくて扉の立て付けは良いはずなんだよ。おい。」
これだけ理由を並べれば諦めてくれるかな。私の生活の質が落ちるので、王宮行きはまっぴらごめん。
「あ、でも追放されたらもっと生活の質が下がりますよね。うわー、迷う。陛下と結婚して大嫌いな王宮に入るか、それとも甘んじて不毛の地に流されるか。」
「質問に答えろ。なんでお前はそう人の話を無視できるんだ。」
考え込む私。
陛下は大きな溜息をついて、何かを諦めた目だ。何を諦めたんだろう。
「ちなみに、他にも王宮が嫌いな理由があるのか? 」
「まだまだありますねえ。」
「それら全て教えてもらっても? 」
「もちろん。」
私はつらつらと王宮に対する恨みつらみを聞かせた。どれほど王宮が嫌いか分かってくれれば、結婚しろなんて言われないだろう。
「そうか、そうか。」
陛下は急にキラキラのどす黒い笑みを浮かべた。
これまで見たどの笑顔よりも活き活きとしたその笑顔に、思わず胸がときめいた。
ああ、やばい。
これが、恋!?
「王宮のものが今までずっと申し訳なかった。関わった人間には厳罰を下し、今後はこのようなことが絶対に無いようにする。」
陛下はずっと話し続けているが、何も頭に入ってこない。そして、胸のときめきは一向に収まらない。
陛下の周りが輝いて見える。
一挙手一投足を見逃したくなくなる。
話してる時に髪をすっと耳に掛けるあのしぐさ。
まじやばない!?
忙しすぎて切る暇がなくて伸びっぱなしの髪の毛を後ろで纏めてるのも、めっちゃいい。これまではダサいだなんだ揶揄ってきたけど、今思えばすごく、いい。
「おい、聖女。聞いてるのか! 」
怒られた。
「本当に申し訳なかった。いただいた指摘は全て改善する。だから結婚してくれないか。」
「いやです。」
あ、間違えた。
「いいですよ。」
「え。」
なんだその目は。いいっていってやったじゃないか。
「すみません、間違えたんです。プロポーズされたら断るのが反射になってまして。」
「なんだそれ。」
「いいですよ、結婚。ちゃちゃっとしちゃいましょう。」
陛下は金魚のように口をはくはくさせた。
「本当だな。本当にいいんだな。言質はとったぞ。」
「いいですよ。」
陛下はドアを開けて叫んだ。
「おい侍従! 聖女から結婚の言質を取った。いますぐ神官を呼んでこい。」
侍従が陛下の暴走を諌める。
「陛下、さすがに無理があります。王とあろう方が、そんな粗末な式でいいはずありません。」
「でも、こいつの気分が変わるかもしれない。明日にはやっぱりやめると言い出しかねん。」
失礼な。
人のことをなんだと思ってるのだ。
侍従は深く頷いた。
「承知しております。しかし陛下、ウエディングドレスは陛下が九十五回目のプロポーズで聖女さまに贈られたものが残っておりますね。」
「ああ。」
おいちょっと待て。
私が送り返したアレ、まだ取ってあったのか。
「そして、結婚指輪は百回目に陛下が贈って聖女さまも受け取られたはずです。」
あれ結婚指輪だったのか。
どうりで陛下が結婚を断られて落ち込むわけだ。
「ですから、二週間後というのはどうでしょう。それぐらいでしたら陛下も聖女さまの気を留め続けられるのでは。」
陛下はきりりと眉を上げた。
「よし分かった。二週間後に俺と聖女の結婚式を行う。国中に伝達しろ。」
ああ、みんな、可哀想に。
私は宰相の副官に胃薬を差し入れることを決意した。
そういえば。
「ねえ、陛下。追放の件ってどうなるんです? 」
「ああ、あれか。」
陛下は片眉をくいっと上げた。
「肥料が開発されたのは本当だが、お前を追放するというのは俺との結婚を承知させるための方便だ。」
なんだよー。
追放か結婚か、結構本気で悩んだ私の労力を返して欲しい。
文官たちの胃と引き換えに、結婚式は無事に挙行された。
それと、陛下がいつ振られるかという賭けでは。陛下が振られないというほうに賭けていたごく少数の人々だけが賭けで大儲けできたらしい。
王宮に住むための打ち合わせにて。
「聖女どの、ありがとうございました。」と、抜け目ない侍従長からウインクされた。
なんでお前も賭けしとんじゃい。
まあ、そんなこんなドタバタがありまして、結婚して王宮に住んだら。食事は美味しかったし、お風呂はあったかくて、ドアは全てスムーズに開いた。
そして陛下は安定のかっこよさだった。
たまにはこういうのを書くのもいいね。
↓連載中です。
よろしくお願いします。
虐げられ令嬢は王立学院で無双する。〜契約精霊がざまぁをしろと煩いですが、スクールライフが忙しいのでそんな暇ありません!〜
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