第二公演 校内公演をしよう①
演劇部に入って、1ヶ月くらい経った。相変わらず志摩さんとは仲良くなれてない。というか、そもそもちゃんと友達いるんだろうか? 一応、毎日部活には来てくれてるけど。
「さて、秋大会! の前に6月くらいに校内公演するから、何したいか考えといてね?」
「校内公演ですか?」
「うん、三人で。私たちもサポートするから! 毎年恒例なんだよね」
でも、志摩さん裏方やりたがってるし、今回もそうなのかな。それなら私たち二人だけど。
「あの、校内公演ってなんでもいいんですか?」
あ、珍し、志摩さんが話すなんて。やりたいやつあるのかな?
「うん! あ、でもエッチなのはダメね? ほら、戯曲ってたまにそういうのあるじゃない?」
三好十郎の『胎内』とかね……。初めて読んだ時はビックリしたな……。
「まぁ、あんまり深く考えなくてもいいから。やりたいの出してみて」
「青山先輩の代は何やったんですか?」
「まぁ、朝倉があんまやりたがらない奴だったからハロルド・ピンターの『料理昇降機』をやったよ。千田がやりたいつってな」
「不条理劇ですか……」
校内公演で不条理劇は攻めてるな。『ゴドーを待ちながら』を私、一回投げ出したんだよな、あまりに分かんなくて。
「不条理劇?」
「不条理、面白いよ!」
食いついた浦路さんに部長が迫る。
「へぇ! まだありますか? 台本!」
私は未だに不条理の面白さが分からない人間だからあんまり読みたくない。長く感じるし。
「あー、『料理昇降機』だと二人しか出れないから、他のは? 志摩さんも―――」
「私は裏方がいい」
ダメか。
「愛ちゃんはあんまり?」
「いや、初っ端から不条理はハードルが高いって言うか……」
「まずは触れてみよう!」
うーん、まぁ、私も苦手意識を克服するチャンスか。
「じゃあ、ちょっと、読んでみますか」
「うん!」
~
やっぱり、よく分かんないな。いや、まぁメッセージ性とかは分かるんだけど、ストーリーがないからなぁ。
「……どうだった? 浦路さん」
「うーん……。うん! 難しいね!」
そもそも素人が不条理劇なんて厳しいにもほどがある。例えばロミジュリだったら『おぉ、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの?』みたいな分かりやすい戯曲のサビがあるけど、不条理劇にはそういうのは全くない。
ずっと会話と関係性の芝居だから本当に上手くないと、どうしたって面白くならないし、読んでる方も面白さが分からないのだ。
「やっぱりいいね、不条理!」
「部長には申し訳ないけど、不条理は我々には……」
「まぁ、そりゃそうだね。私も不条理はよく分からんし」
というか、部長が不条理好きなの意外だ。
「私は好きですよ、不条理。別役とか読みますし」
「志摩ちゃん!! 本当に!? やっと仲間を見つけたよー!! 秋大会で一緒に高校演劇に不条理の風を吹かせよう!!」
それは無理だ。審査員には珍しがられるかも知らないけど。まぁ志摩さん自身も珍しい人だし、意外な感じはない。
「まぁ、好きな戯曲選びな」
「はい」
「愛ちゃん何やりたい?」
2人の劇か……あんまり出てこないな。『エアスイミング』は結構重いから、軽く校内でって感じじゃない。岸田國士の『命をもてあそぶ男ふたり』とか? ただ岸田國士も難しいしなぁ。あ―――
「三谷幸喜の『笑の大学』とか、どう? たぶん台本無いけど」
「あ!! 知ってる!! 映画の人だよね!!」
「うん、そうそう。『ステキな金縛り』とかの」
私は映画もそこそこ見る。集中しちゃってポップコーンが毎回残るから、後半急いで食べてよく苦しくなる。
「でも、『笑の大学』の脚本はここにはないかな……」
まぁ、三谷幸喜は自分の脚本出版しないもんなぁ。それに上演許可も出してくれないだろう。
「んー、困ったね!」
「あの、書いてたのがあるの」
「書いてたの? 志摩さんが?」
「うん」
分かる。私も一時期戯曲を書いてた。といっても完成できたのなんて一つもないけど。
ストーリー考えて、登場人物考えて、で面白くして……ってだいぶ難しいし、見返してみると恥ずかしすぎて死にたくなる。
志摩さんは未だに沼に突っ込んでる訳だ。しかし、私は志摩さんがどんなものを書いてようと、笑ったり否定したりはしない。なぜなら、誰もが一度は通る道だから。
「読んでみていい?」
「もちろん、配役も考えてる」
さて、立場は同級生だけど、後進を見守る気持ちだ。どんなものを書いたんだろう。
~
「……どう?」
いや、めちゃくちゃ面白いじゃん!! え、志摩さん……えっ!? 勝手に深夜テンションで書いてみた私と同列視してたけど、全然そんなレベルじゃない……戯曲としての質が高い……!!
「お、面白いよ!! しかも、これ、当て書き? なんか、私たちにスゴい合ってたんだけど……?」
「うん、イメージして書いた」
だから、毎日速攻で帰宅してたのか……。
「スゴいね志摩さん! 部長としてこれからも部が安泰そうで何より!」
いや、マジ、ついさっきまでの自分を殴りてぇ~。
内容は二人の会話劇で、好きな人が同じ二人がお互いに相手に告白を阻止しようと会話で不安を煽ったり煽られたりする、という一場完結の戯曲だった。
動きも少なく、登場人物も私たちの等身大で、演じやすい。そして何より戯曲としてのレベルが高く、無駄な掛け合いが一つもない。どのセリフも相手の心を巧妙に動かすように作られてる。
「書ける人は貴重だからな、私らの代は居なかったし、そういう人」
そう、一本書けるだけでも本当にスゴい。それが面白いとなればなおさら。そして、思ったのは、やっぱり浦路さんは上手いということ。セリフがダイレクトに伝わってくる。
「じゃあ、コレやってみてもいい?」
「もちろん」
校内公演は志摩さんの『恋愛相談』で決まった。
「演出は例年部長―――まぁ私になるんだけど、志摩さんがやってみる? 結構難しいけど」
「いえ、私は書き専門なので……演出助手とかで」
「じゃあ、そうしよう! 舞台監督は青山で、道具は朝倉ね!」
まさか、こんなに早く演じる機会が来るなんて……!! 楽しみだ。
~
放課後。
私たちは早速ファミレスでセリフを入れ始めた。珍しく、というか初めて志摩さんと帰った。
ちなみにセリフを覚えるのは初めてだ。いつの間にか覚えたってのは何回かあるけど。
「私セリフ覚えられるかなぁ……勉強も苦手だし」
浦路さんは戯曲と向き合うのも初めてだし、難しいかもしれない。とはいえ、私も効率のいい覚え方なんて分からない。
「トリガーを考えるといい」
志摩さんが台本を指差しながら言った。
「トリガー?」
「例えば、このセリフ。前のセリフの最後が無いと言えないとか。そういうの探す」
具体例を出すと『お前は酷い!』『酷いのはあなたよ!』みたいな感じか。
「なるほど……」
浦路さんが、かじりつくようにセリフを読んでる。なんというか、一生懸命だ。最初に「スグやめそう」とか思ってごめんね。
「後藤は経験者?」
「え、あ、いやー、ちょっとだけ……ほとんど素人」
「そうなんだ、やってたかと思った」
コレは褒められたってことなのかな?
「志摩さんは? 戯曲書けるって結構スゴいけど」
「私も初めて。でも、ずっと書きたいとは思ってた」
初めてでコレですか。スゲー……。
「でも、書く理由がなかった」
「理由か」
まぁ発表する場がないと、書こうって気にならないか。
「これからはある」
志摩さんがドリンクバーのオレンジジュースを飲み干した。
「二人のために書く」
「えっ!?」
「ゆうちゃん!! 嬉しい!! 頑張るよ!!」
私たちのために書くって、なんか座付作家みたいで、ちょっと興奮した。




