その歩幅
社交の場に顔を出すのは、久しぶりだった。
「形式的な挨拶だけです」
「分かっています」
レイン様の隣に立つと、自然と背筋が伸びる。
ざわめきは、すぐにこちらへ向いた。
「……本当に婚約なさったのね」
「ええ」
声を掛けてきたのは、かつて同じ年頃だった令嬢。
以前は、私を遠巻きに眺めるだけの人だった。
「昔は、少し近寄りがたい印象でしたけれど」
「そうでしょうね」
否定はしない。
彼女は、私の反応に少し戸惑った様子だった。
「でも今は……落ち着いていて、素敵だと思います」
「ありがとうございます」
その言葉に、嫌味はなかった。
評価が変わったのではない。
見る側の視点が変わったのだ。
***
「あなた、本当に変わったわね」
別の令嬢が言った。
「そうでしょうか」
「ええ。昔は、何を考えているか分からなかった」
私は、少しだけ微笑む。
「今も、あまり話しません」
「……確かに」
「ただ、必要なことは伝えるようにしています」
それだけだ。
沈黙が気まずくなくなったのは、
私自身が、自分を受け入れたからだろう。
***
帰り際。
「疲れましたか」
彼が、低い声で聞いてくる。
「少しだけ」
「では、今日は早く帰りましょう」
人目を避けるように、静かな廊下を歩く。
「昔の知人に会うのは、億劫でしたか」
「いいえ」
私は、正直に答えた。
「以前の評価が、今はどうでもよくなっただけです」
彼は、少しだけ目を細めた。
「強くなりましたね」
「いいえ」
首を振る。
「やっと、無理をしなくなっただけです」
その言葉に、彼は何も言わなかった。
ただ、歩幅を合わせてくれる。
それが、何よりの答えだった。




