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【連載版】可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ
可愛げがないと言われた令嬢

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6/22

正式婚約の障害

 正式な婚約の話が出たのは、噂が落ち着き始めた頃だった。


「王府への報告も必要になります」

「そうですね」


 淡々と話していたはずなのに――

 その翌日から、空気が変わった。


 ***


「ノートン子爵令嬢、少しよろしいかな」


 呼び止めてきたのは、年配の官僚だった。

 改革案に反対している派閥の一人。


「ご用件は」

「率直に言おう」


 彼は、わざと周囲に聞こえる声で言った。


「婚約は、控えた方がいい」

「理由を伺っても?」


「君は、レイン殿の補佐だろう」

「はい」


「女性が私情を挟めば、改革案の公平性が疑われる」

「私情とは?」


「婚約だ」


 私は、静かに首を傾げた。


「私の業務内容は、数値整理と反論想定です」

「……」


「感情が入り込む余地はありません」

「だが周囲がどう見るかだ」


「周囲の誤解は、成果でしか正せません」


 その場は、それで終わった。

 だが――終わっていなかった。


 ***


 次に届いたのは、実家からの手紙。


「父、ですか……」


 嫌な予感は、的中する。


『婚約の件、少し考え直せないか』


 文字にすると、それだけだ。

 だが、行間は重い。


『相手は確かに優秀だが、家格が釣り合わない』

『今なら、別の縁も――』


 私は、手紙を静かに畳んだ。


 可愛げがない娘。

 そう言われ続けた私が、“価値が出た”途端、惜しくなる。


 滑稽だと思った。


 ***


 決定打は、その翌日。


「ご無沙汰しております」


 執務室に現れたのは、見覚えのある男。


「……ラドフォード男爵」


 以前、縁談を持ち込んできた人物だった。


「驚きましたよ。婚約の噂」

「用件は何でしょう」


 彼は、にこやかに言った。


「考え直しませんか」

「何を」


「あなたには、もっと“相応しい立場”がある」

「以前は、そうはおっしゃいませんでした」


「状況が変わった」


 その言葉に、全てが詰まっている。


「今のあなたは、価値が高い」

「……」


「レイン殿との関係は、あなたのためにならない」

「それは、誰の判断ですか」


「私だ」


 私は、はっきりと答えた。


「不要です」


 彼の笑顔が、初めて歪んだ。


 ***


「……全部、来ましたね」


 その日の夜、私はレイン様に報告した。


「家、官僚、元縁談」

「想定内です」


 彼は、書類から目を離さない。


「迷っていますか」

「いいえ」


 即答だった。


「私は、補佐である前に、一人の人間です」

「はい」


「誰かの都合で、立場を変えるつもりはありません」


 彼は、ようやくこちらを見た。


「後悔は」

「ありません」


 一瞬の沈黙。


「なら、問題ありません」


 彼は、淡々と言った。


「邪魔するなら、排除します」

「……穏やかではありませんね」

「穏やかに済ませるつもりがないだけです」


 その言葉に、胸が静かに熱くなった。


 ***


 翌日。


 改革案の中間報告会で、彼は公然と宣言した。


「補佐官マリエル・ノートンは、引き続き本案件を担当します」

「婚約の件は?」

「業務には関係ありません」


 反論は、出なかった。


 数字と成果が、全てを黙らせていた。


 ***


 夜。


「守られている、と思いますか」


 ふと、そう聞いた。


「いいえ」

「?」


「あなたは、自分で立っています」

「……」


「私は、隣にいるだけです」


 その言葉が、何より心強かった。


 可愛げがない。

 そう言われ続けた私が、初めて対等でいられる場所。


 邪魔は入った。

 でも――揺らがなかった。


 正式な婚約は、もう目の前だ。


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