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可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ


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5/15

噂の中心

 婚約の噂が広まるのに、時間はかからなかった。


「聞いた?」

「レイン様が婚約なさるって」

「相手が、ノートン子爵令嬢ですって」


 官庁の廊下でも、資料室でも、視線が集まる。


 以前は好奇心だけだったそれが、今は評価と探りに変わっていた。


「……落ち着きませんね」


 思わずそう漏らすと、隣を歩くレイン様は首を傾げた。


「問題でも?」

「私に注目が集まるのは、あまり慣れていなくて」


「無視すればいい」

「できれば楽なのですが……」


 彼は一瞬だけ考えた後、淡々と言った。


「仕事が遅れるなら、私が排除します」

「排除……」


「余計な干渉です」


 本気だった。


 ***


 その日の午後、社交界からの招待状が山のように届いた。


「……こんなに」


 机の上に積まれた封筒を見て、思わず息をのむ。


「今まで一通も来なかったのに」

「それは、あなたが変わったからではありません」


 彼は、きっぱりと言った。


「周囲が変わっただけです」


 封筒の一つを手に取る。


「“ご婚約おめでとうございます。ぜひ一度――”」

「出る必要はありません」


「でも、今後のためには……」

「今後必要なのは、結果です」


 その言葉に、私は苦笑した。


 やはり、この人は一貫している。


 ***


 官僚養成学校時代の知人からも、声を掛けられた。


「マリエル、久しぶり!」

「……お久しぶりです」


 彼女は、以前は私を避けていた一人だ。


「あなた、すごいじゃない。レイン様の婚約者ですって?」

「まだ正式ではありません」


「でも、見る目があったのね」

「……そうでしょうか」


 その言葉に、違和感を覚える。


「見る目があった、というより」

「?」


「私は、ずっと同じです」


 彼女は、一瞬だけ言葉に詰まった。


「前は、ちょっと近寄りがたくて」

「そう言われていました」


「でも今は……」

「今は、“価値がある”からですか」


 自分でも驚くほど、冷静な声だった。


 彼女は、何も言えなくなった。


 ***


 夕方、仕事が一段落した頃。


「疲れていませんか」


 彼が、書類から目を上げずに言った。


「少しだけ」

「なら、休憩を」


 差し出されたのは、温かい紅茶だった。


「……覚えていてくださったんですね」

「砂糖を入れない方がいい」


「ええ」


 何気ない気遣いが、胸に染みる。


「不思議です」


 思わず、口にした。


「何が」

「評価されるようになったのに、以前より落ち着いています」


 彼は、少しだけ考えた。


「基準が、変わったからでしょう」

「基準?」


「可愛げ、ではなく」

「……能力、ですか」


「はい」


 その言葉に、胸が温かくなる。


 ***


 夜、自室で一人になる。


 鏡に映る自分は、以前と何も変わらない。


 飾り気のない服。

 控えめな髪型。


 それでも、私はもう知っている。


 可愛げがない、と言われた私でも――

 必要としてくれる場所がある。


 そして。


「並ぶ相手だ、なんて」


 思い出して、少しだけ頬が熱くなった。


 噂の中心に立っても、私は私のままでいい。


 そう思えたことが、何よりの変化だった。


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