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可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ


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4/6

可愛げがない令嬢は、条件のいい縁談を勧められる

 その手紙は、仕事の合間に届いた。


 封蝋を見た瞬間、胸の奥がひやりとする。

 ノートン子爵家の印。


「実家から?」


 向かいの机で資料を読んでいたレイン様が、視線を上げた。


「はい。久しぶりです」


 そう答えながら、私はすでに内容を察していた。

 こういう呼び出しは、決まって一つしか理由がない。


 ***


 応接室には、父と義母、そして見知らぬ男性がいた。


「マリエル、久しぶりだな」


 父は、どこか落ち着かない様子で言った。


「こちらは、ラドフォード男爵だ」

「初めまして。マリエル・ノートンと申します」


 男爵は、にこやかに微笑んだ。

 だが、その視線は私ではなく、**“条件”**を見ている。


「官僚養成学校を優秀な成績で卒業。現在は王府直轄案件に従事中」

「……よくご存じですね」


「ええ。今のあなたは、とても価値がある」


 その言葉で、全てを理解した。


 縁談だ。

 しかも、こちらの意思は最初から含まれていない。


「妻としても、補佐としても理想的だ」

「……」


 私は、静かに息を吸った。


「恐れ入りますが」

「何かな」


「お断りいたします」


 空気が、一瞬で固まった。


「理由を聞いても?」

「現在、私は進行中の行政改革案件に従事しております」

「結婚すれば辞退すればいい」

「そのつもりはありません」


 男爵は、眉をひそめた。


「女性が仕事に固執する必要はないだろう」

「私にとっては、必要です」


 父が口を開く。


「マリエル、相手は良家だ。条件もいい」

「条件、ですか」


 思わず、聞き返してしまった。


「それは、私の条件ですか」

「……何を言っている」

「私が、どうしたいかを聞かれましたか」


 誰も答えなかった。


 義母が、少しだけ目を伏せる。


 ――ああ。


 私は、“選ばれる物”なのだ。


「可愛げがないと言われ続けた娘だ」

 男爵が、苦笑するように言った。

「だが今は使い道がある」


 その一言で、胸の奥が冷え切った。


 ***


「ありますよ」


 低く、落ち着いた声が応接室に響いた。


 振り向くと、そこに立っていたのは――


「レイン、様……?」


「失礼。報告書を届けに来たついでです」


 彼は一礼すると、淡々と続けた。


「ですが、聞き捨てならない言葉がありました」


 男爵に視線を向ける。


「“使い道がある”とは?」

「事実を言ったまでだ」

「いいえ。事実ではありません」


 彼は、一歩前に出た。


「マリエル・ノートンは、現在進行中の改革案の中核です」

「大袈裟だな」

「事実です」


 声に、迷いがなかった。


「彼女を失えば、計画は停止します」

「……」


「彼女は、あなたの家に嫁ぐための条件ではない」

「失礼な男だな」

「失礼なのは、能力を理解せずに利用しようとする方です」


 空気が、張り詰める。


「それに」


 彼は、私を一度だけ見た。


「彼女には、すでに役割があります」


「役割?」


「私の補佐であり――」


 わずかな間。


「将来的に、私の婚約者になる予定です」


 ……え?


 頭が、真っ白になった。


「正式な手続きはこれからですが」

「本気で言っているのか」


 父の声が震える。


「はい」


 彼は、即答した。


「彼女を手放す気はありません」


 視線が、私に集まる。


「マリエル」


 彼が、静かに呼んだ。


「異論はありますか」


 一瞬、迷った。


 でも――

 ここで黙れば、また“物”に戻る。


「ありません」


 私は、はっきりと言った。


「私は、この仕事を続けたい」

「そして」


 息を吸う。


「アレクシス・レイン様の隣にいることを、望みます」


 沈黙。


 最初に折れたのは、男爵だった。


「……縁がなかったようだ」


 そう言って、立ち上がる。


 父は、しばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。


「……好きにしなさい」


 義母は、初めてまっすぐ私を見て、微笑んだ。


「誇らしいわ」


 その言葉で、胸が熱くなった。


 ***


 屋敷を出た後。


「勝手に婚約者にしましたね」

「嫌でしたか」


「……いいえ」


 正直な答えだった。


「可愛げがない私を、選んでくださって」

「違います」


 彼は即座に否定した。


「あなたは、最初から“選ばれる側”ではない」

「?」


「並ぶ相手です」


 その言葉が、静かに胸に落ちた。


 可愛げがない。

 そう言われ続けた私には、居場所がなかった。


 でも今は――


 必要とされる場所がある。

 評価してくれる人がいる。


 それだけで、人生は随分と生きやすい。

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