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可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ


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3/6

合理性だけで選ばれた

 翌朝、私は局長室に呼び出された。


「ノートン子爵令嬢」

「はい」


 地方行政局の局長は、珍しく背筋を正していた。

 机の上には、見覚えのある資料が置かれている。


 ――私が、昨夜まで確認していた政策案。


「こちらを作成したのは、君だな」

「過去に、補佐として関わっておりました」


 局長は、短く息を吐いた。


「中央から視察官が来ている」

「存じております」


「その人物がな、昨日――」


 言葉を切り、こちらを見る。


「君を指名した」


 私は、一瞬だけ瞬きをした。


「……理由を、お聞きしても?」

「『一番、無駄がない』そうだ」


 それだけだった。


 誉め言葉としては、あまりに素っ気ない。

 けれど。


 胸の奥で、静かに何かが落ち着いた。


「会ってもらえるか」

「命令でしたら」


「いや」


 局長は、はっきりと言った。


「これは、君への依頼だ」


 ***


「ノートン子爵令嬢、でしたね」


 応接室にいた男は、背が高いわけでも、目立つ顔立ちでもなかった。

 だが、整えられた黒髪と皺ひとつない外套が、この人物が余計なことをしない立場にいると静かに語っている。


 年齢は三十前後。

 鋭い視線をしているが、私を値踏みする色はなかった。


「はい。マリエル・ノートンと申します」


 形式通りに頭を下げると、男は軽く頷いた。


「アレクシス・レインです。今回の地方行政改革案を担当しています」


 ――名前を聞いた瞬間、空気が一段変わった。


 官僚養成学校に通っていれば、知らないはずがない。

 異例の速さで中央に抜擢された実務官僚。

 有能だが協調性に難あり、という噂の人物。


「あなたが、補佐候補です」


「……私が?」


 思わず聞き返してしまった。


 私は成績は悪くないが、社交性に問題があると散々言われてきた。

 “可愛げがない令嬢”――それが、私の評価だ。


「ええ」


 彼は淡々と書類を差し出す。


「過去三年分の提出資料を拝見しました。無駄がなく、指摘も的確だ」

「ありがとうございます」


「感情的な表現が一切ないのもいい」


 それは、褒め言葉なのだろうか。

 判断しかねていると、彼は続けた。


「安心してください。ここでは、それは欠点ではありません」


 胸の奥で、小さく何かがほどけた。


 ***


「この改革案ですが」


 机を挟んで向かい合い、私は指摘を口にする。


「第三項、現場裁量を増やすのは賛成ですが、監査基準が曖昧です」

「……確かに」


「反対派は、必ず“不正の温床になる”と言います」

「対策は?」


「数値基準を明文化し、違反時の処分を先に提示します」


 彼は、数秒だけ考えた後、頷いた。


「採用しましょう」


 即断だった。


 彼が指を組んだ瞬間、私は理解した。

 この人は、怒鳴らないし、感情で人を切らない。

 その代わり、判断が早い。


「君、よく言われませんか」


「何をでしょう」


「可愛げがない、とか」


 一瞬だけ、言葉に詰まった。


「……よく、言われます」


「意味が分からない」


 彼は本気でそう言ったようだった。


「必要なことを必要なだけ話す。約束を守る。成果を出す」

「……はい」


「それ以上、何が要るんです?」


 問いかけは、責める調子ではなかった。

 純粋な疑問だ。


「社交界では、愛想や雰囲気も重視されますから」


「ここは社交界ではありません」


 きっぱりと言い切られた。


「少なくとも、私の仕事場では」


 その言葉が、胸に静かに染み込んだ。


 ***


 数日後。


「レイン様の補佐に、ノートン子爵令嬢が入ったらしい」

「例の……愛嬌のかけらもない?」


 廊下ですれ違う視線が、以前とは違う。


 好奇心と、少しの警戒。

 そして、評価を測る目。


「気にしなくていい」


 隣を歩く彼が、低く言った。


「成果を出せば、黙ります」


「黙かなかった場合は?」


「切ります」


 迷いのない即答だった。


 ――ああ。


 この人の隣は、居心地がいい。


 無理に笑わなくていい。

 可愛く振る舞わなくていい。

 “役に立つ”ことを、そのまま価値として扱ってくれる。


「君は、有能です」


 歩きながら、彼はそう言った。


「それだけで、十分でしょう」


 私は、少しだけ視線を落とし、頷いた。


「……はい」


 可愛げがない。

 そう言われ続けてきた私に、初めて与えられた居場所。


 ここなら――

 私は、私のままでいられる。

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