王命の行方
その招集は、突然だった。
「王命会議が開かれます」
使者の声は簡潔で、拒否の余地はない。
王都の中枢――主要貴族、官僚、そして王族が一堂に会する場。
私は、静かに書類をまとめた。
ここまで来た。
なら、逃げる理由はない。
***
円卓を囲む会議室は、重苦しい沈黙に包まれていた。
議題は一つ。
王都西部の流通停止。
複数の貴族家の利権が絡み合い、互いに責任を押し付け合った結果、物流が麻痺した。
影響はすでに市井へ及び、民の不満も高まりつつある。
「原因は明白だ」
声を上げたのは、
ガルディア=ベルモント侯爵。
「改革を急ぎすぎた官僚側の判断ミスだ」
「現行制度を維持していれば、このような事態にはならなかった」
同調する声が、いくつも続く。
――つまり。
責任転嫁だ。
私は、発言を求めなかった。
今は、聞く立場でいい。
「対策案は?」
王女殿下の問いかけに、侯爵が胸を張る。
「一時的に、旧来の流通枠へ戻す」
「各侯爵家が管理を引き受け、再調整を――」
「却下」
短い言葉だった。
王女殿下は、侯爵を見なかった。
視線は、会議室の端――私に向けられていた。
「ノートン嬢」
「はい」
「あなたなら、どうしますか」
一瞬、ざわめきが走る。
私は立ち上がり、円卓の中央へ進んだ。
許可を待たず、資料を広げる。
「流通は止まっていません」
「“詰まっている”だけです」
地図。
数字。
矢印。
「旧制度に戻せば、混乱は三ヶ月続きます」
「ですが――」
私は、一本の線を引いた。
「中継権を一時的に切り離し、官直轄で再配分する」
「侯爵家の顔色を窺う必要はありません」
「なっ……!」
ベルモント侯爵が声を荒げる。
「それは、貴族の権限を――」
「越えていません」
私は、即座に返した。
「王権の範囲内です」
「資料三枚目をご覧ください」
静まり返る会議室。
王女殿下が、ゆっくりと頷いた。
「合理的ですね」
「実行可能です」
そして、決定打。
「本件、ノートン嬢に一任します」
「責任も、裁量も、すべて」
空気が、変わった。
誰も反論しない。
できない。
ベルモント侯爵は、口を閉ざしたまま、視線を落とした。
私は、深く一礼する。
「承りました」
それだけでよかった。
***
会議後。
廊下で、ヴァルテン侯爵が声をかけてきた。
「……完全に、主役だな」
「業務です」
「いや」
侯爵は、静かに首を振る。
「これは、評価だ」
「君は――もう“補佐”ではない」
私は、足を止めなかった。
肩書きは、いらない。
称賛も、いらない。
ただ、自分の正しい感じた事を、誰にでもどんな場でも正直に伝える事ができる。
そんな生き方をしていたい。




