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【連載版】可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ
その評価は、王都でも覆らない

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20/22

侯爵の視線

 その日の会議室は、いつもより空気が重かった。


 理由は明白だ。

 重厚な扉の向こうに控えるのは――

ヴァルテン=クロイツ侯爵。


 財政と流通に絶対的な影響力を持つ、大貴族。

 王都官僚の間では「意見を通すより、機嫌を損ねないことが最優先」とまで言われる人物だ。


「入るぞ」


 低く、よく通る声。


 紫紺の外套を翻し、侯爵は会議室へ足を踏み入れた。

 その視線が、まず上官へ、次に卓上の資料へ――

そして最後に、私へと止まる。


「……女性、か」


 失望とも、単なる事実確認ともつかない声だった。


「この改革案の説明役かね?」

「いえ」


 答えたのは、私ではない。


「本件の実務責任者です」

「ほう」


 侯爵は、わずかに眉を上げた。


「随分と思い切った人事だ」

「能力に基づいています」


 それ以上、言葉は続かなかった。


 資料が配られる。

 侯爵は、何も言わずに目を落とした。


 沈黙。

 紙をめくる音だけが、一定のリズムで響く。


 ――十分ほど経った頃。


「前例がない」


 侯爵が、低く言った。


「はい」

「失敗した場合の責任は?」

「失敗する前提で組んでいません」


 淡々と、事実だけを述べる。


 侯爵の視線が、初めて私を正面から捉えた。


「大胆だな」

「必要最低限です」


 会議は、それ以上荒れなかった。


 最終的に下された判断は、一つ。


「本案は、ノートン嬢の修正案を採用する」


 ヴァルテン侯爵は、反論しなかった。


 それが、周囲にとって何よりの驚きだった。

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