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可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ


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2/10

彼女が外されても問題は起きないはずだった

 中央政策案件の準備会議は、滞りなく進んでいた。


「では、この予算配分で確定ということで」

「異論ありません」


 会議室には、穏やかな空気が流れている。

 誰もが、自分たちの判断を疑っていなかった。


 ――あの令嬢がいなくても。


「ノートン子爵令嬢は、今回は地方出向でしたな」

「ええ。優秀ですが、少し融通が利かない」


 部長は肩をすくめる。


「こういう場では、空気を読む者の方が重要です」

「確かに。数字ばかりでは、貴族は納得しませんからな」


 笑いが起きた。


 彼らにとって、仕事とは調整であり、

 正しさは二の次だった。


「彼女の資料は、前回までのものを使えば十分だ」

「多少の修正は必要でしょうが、問題ないでしょう」


 ――そう、問題はない。


 誰もが、そう信じていた。


 ***


 一方その頃。


 私は地方行政局の一室で、黙々と書類を整理していた。


 与えられた机は、窓際の小さなもの。

 仕事は、過去案件の整理と写し取り。


 表向きは「経験のため」。

 実際には、重要な決定から外された場所だ。


 それでも、私は手を止めなかった。


「……これは」


 ふと、一枚の資料に目が留まる。


 中央で進められている政策案。

 私が、途中まで関わっていた案件だった。


 ――この数字、おかしい。


 予算配分。

 試算の前提。

 利権の流れ。


 一つ一つ確認していくと、

 見過ごされている歪みが浮かび上がる。


 私は、息を吐いた。


「このまま進めば……」


 最悪の場合、

 地方の反発で計画は頓挫する。


 それでも、私は口を挟まなかった。


 命じられていないことは、しない。

 それが、補佐官として身につけた処世術だった。


 ***


 その日の夕方。


 地方行政局に、一人の男が訪れた。


 背筋の伸びた、無駄のない所作。

 華美ではないが、存在感がある。


「中央からだ。局長に用がある」


 短い言葉で名乗り、通されていく。


 廊下の先ですれ違ったとき、

 その男は一瞬、私の手元の資料に視線を落とした。


「……それ」


 低い声。


「誰が作った」


「以前、私がまとめたものです」


 男は足を止めた。


「名前は」

「マリエル・ノートンと申します」


 数秒の沈黙。


「……なるほど」


 それだけ言って、男は去っていった。


 けれど。


 その背中が、どこか引っかかった。


 ***


 夜。


 私は一日の作業を終え、書類を閉じた。


 中央では、今日もきっと

 「問題ない」という言葉が飛び交っているだろう。


 ――本当に、そうだろうか。


 私は、胸の奥に小さな違和感を抱えたまま、灯りを落とした。


 そして同じ頃。


 中央行政局の会議室で、

 誰かが、初めて顔を曇らせていた。


「……この数字、合っているか?」


 静かな一言が、

 まだ誰にも気づかれていない綻びを、示していた。

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