表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ
その評価は、王都でも覆らない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

発言権

 王都中央官庁での初日は、静かに始まった。


 私に与えられた仕事は、資料整理。

 会議に同席することは許されていない。


「ノートン嬢、これを年代順に並べておいて」

「承知しました」


 机に積まれた書類は、地方行政改革関連のものだった。

 懐かしい分野だ。


 ――けれど。


 私は、紙をめくる手を止めた。


 予算配分。

 事業期間。

 人員配置。


 数字が、噛み合っていない。


(これは……)


 私が口を挟むべき立場ではない。

 少なくとも、彼らはそう思っているだろう。


 私は、一度深く息を吸い、黙って作業を続けた。


 感情は、必要ない。

 事実だけを拾えばいい。


 ***


 昼過ぎ、簡易会議が始まった。


 私は、部屋の隅で筆記を任される。

 発言権はない。


「この案で進めましょう。前例もあります」

「異論は?」


 誰も、数字を見ていない。


 私は、視線を落としたまま、計算を続けていた。


 ――三年後、破綻する。


 確信に近い予測だった。


 会議が終わり、人がはけていく。

 残ったのは、私と、一人の上官だけだった。


「ノートン嬢」


 呼び止められ、顔を上げる。


「何か、気づいたことは?」


 一瞬、迷った。


 ここで黙るのは、簡単だ。

 でも、それは責任放棄でもある。


「……よろしいでしょうか」

「簡潔に」


 私は、手元の紙を差し出した。


「この事業案ですが、初年度は問題ありません」

「それは承知している」

「二年目以降、人件費が増えます。算定基準が旧式です」


 上官は、眉を寄せた。


「そんなはずは――」

「こちらをご覧ください」


 私は、数字を指し示す。


「仮にこのまま進めた場合、三年目で赤字に転じます」

「……」


 沈黙。


 上官は、しばらく書類を見つめていた。


「これは……誰も指摘していないな」

「地方では、同様の失敗例があります」


 淡々と告げる。


「前例がある、ということは」

「成功した前例とは限らない、か」


 上官は、ゆっくりと息を吐いた。


「君」


 視線が、私に向く。


「なぜ、会議中に言わなかった?」

「求められていませんでしたので」

「……なるほど」


 評価なのか、呆れなのか。

 判別はつかなかった。


「明日の会議に出なさい」

「え?」

「今度は、隅ではなく席に」


 私は、静かに頷いた。


「承知しました」


 ***


 席に戻ると、周囲の官僚たちが、ちらちらとこちらを見ていた。


「何かあったのか?」

「さあ……」


 噂は、早い。


 でも、まだ信用はない。

 それでいい。


 私は、机に向かい直した。


 彼がいたら、こう言うだろう。


――数字は裏切らない。


 私は、ペンを走らせる。


 ここは、王都。

 誰もが肩書きで人を測る場所だ。


 なら。


 私は、結果だけを積む。


 評価されなくても構わない。

 でも――


 壊れると分かっている案を、黙って通す気はなかった。


 机の上で、紙が重なる音がした。


 静かに。

 確実に。


 歯車が、一つ、動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ