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【連載版】可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ
可愛げがないと言われた令嬢

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16/22

二人、並び立つ場所

 その日、私はいつもより早く庁舎に来ていた。


 理由は特にない。

 ただ、そうするのが自然だった。


 窓から差し込む朝の光はまだ柔らかく、廊下には人の気配も少ない。

 この時間帯に庁舎にいるのは、いつも決まって限られた人間だけだ。


 執務室に入る。


 彼の席は、変わらず空いている。

 書類の位置も、椅子の角度も、最後に使っていた時のまま。


 私は、そこを動かさなかった。


 彼が戻るかどうか。

 それは、ずっと不確かなままだった。


 それでも私は、席を消さなかった。

 片付けもしなかった。


 「戻る場所」を、残すと決めたのは――

 私自身だったからだ。


 ***


「随分、整いましたね」


 背後から聞こえた声に、私は一瞬だけ動きを止めた。


 聞き慣れた声。

 けれど、もう二度と聞けないかもしれないと、覚悟した声。


 振り返る。


 そこに立っていたのは――


「……レイン様」


 少し痩せている。

 顔色も、以前より穏やかだ。


 けれど、視線は変わっていない。


 理性と覚悟を宿した、あの目。


「戻っても、よろしいでしょうか」


 冗談めいた口調だった。


 私は、一拍置いてから答えた。


「遅刻です」

「厳しいですね」


「席、空けてありますから」


 それだけ言った。


 彼は、静かに息を吐いて笑った。


「ありがとうございます」


 それ以上の言葉は、なかった。


 でも――

 胸の奥で、何かが確かにほどけた。


 張り詰めたまま、立ち続けていた糸が。

 ようやく、役目を終えたように。


 ***


「あなたが進めた改革案、拝見しました」


 並んで座りながら、彼が言う。


「どうでしたか」

「非常に合理的です」


 淡々とした評価。

 けれど、それは彼にとって最大限の賛辞だった。


 彼は、少し間を置いてから付け加える。


「私がいなくても、問題ありませんでしたね」


 私は、首を振った。


「いないのと、必要ないのは違います」


 言葉にした瞬間、自分でも驚くほど、声は静かだった。


 彼は、少しだけ目を細める。


「……相変わらずですね」


「ええ」


 私は、机に向き直る。


「でも、戻ってきてくださって良かった」


 それだけ言って、書類に視線を落とした。


 感情を飾る言葉は、必要なかった。


 彼は、隣の席に座る。


 椅子の軋む音が、やけに心地よい。


 その音が、ここに人が戻ったことを、何よりも雄弁に語っていた。


「これからも」

「はい」


「並んで、仕事を」

「ええ」


 可愛げがない。

 そう言われ続けた私が、ここまで来た。


 笑顔も、愛想も、器用に振る舞うこともできなかった。

 ただ、逃げずに立ち続けただけだ。


 でも――


 私は、私のままでよかった。


 誰かの隣に立つために、形を変える必要はなかった。


 隣に、戻る人がいる。

 対等に、言葉を交わせる人がいる。


 それで、十分だ。


 私は書類に目を落とし、彼は同じ机を見る。


 同じ方向を向いて。

 同じ場所に立って。


 それが、私たちの選んだ答えだった。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


この物語は、

「可愛げがない」と言われ続けた一人の女性が、

それでも自分の足で立ち続け、

最後に認めてくれた人と並ぶ場所を選ぶまでの話でした。


派手な展開はありませんが、

誰かの心に、静かに残る物語になっていれば嬉しいです。


もし少しでも

「良かった」「最後まで読んでよかった」

そう感じていただけたなら、

評価やブックマークで応援していただけると、

次の作品を書く大きな励みになります。


ご好評につき、第二章も続けて執筆しますので引き続きよろしくお願いします。

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