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【連載版】可愛げがないと言われ続けた令嬢ですが、有能だと気づいてくれた人と婚約しました   作者: ピラビタ
可愛げがないと言われた令嬢

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12/22

補佐ではなく代理

 正式な通達は、翌朝には出た。


 ――アレクシス・レイン殿、療養のため職務を一部停止。

 ――当面の間、業務代理はマリエル・ノートンが務める。


 文章は簡潔だったが、その意味は重い。


 庁舎内は、静かにざわついた。


「代理、だと?」

「まだ若いだろう」

「いくらレインが信頼しているとはいえ……」


 囁きは、私の耳にも届く。


 だが、それを止める人間はいなかった。


 止められるだけの実績が、すでに書類の中に揃っていたからだ。


 ***


 最初の会議室。


 席に着いた瞬間、視線が集まる。


 空いている中央席――

 本来、レイン様が座るはずだった場所。


 私は、そこに座った。


「では、始めます」


 声は、落ち着いていた。


 議題は、地方行政改革案・第三段階。

 利権調整、予算再配分、人員再編。


 誰もが避けたがる案件だ。


「まず、反対意見から整理します」


 私は、資料を開いた。


「第一に、既存官僚組織の反発」

「第二に、地方貴族からの圧力」

「第三に、短期的な財政悪化への懸念」


 淡々と、並べる。


「それぞれ、対応策は既に用意しています」


 ざわめきが、止まった。


「順に説明します」


 感情は挟まない。

 必要なのは、説得ではなく納得だ。


 数値、事例、過去の失敗例。

 全て、事前に想定していた。


「……以上です」


 一拍、沈黙。


 最初に口を開いたのは、年配の官僚だった。


「……異論はない」


 それが、決定打だった。


 会議は、そのまま承認へと流れた。


 ***


 昼過ぎ。


 執務室に戻ると、呼び止められた。


「マリエル殿」


 振り向くと、上級官僚の一人が立っていた。


「レイン殿の代理として、確認しておきたい」


「何でしょうか」


「彼が戻れなかった場合」


 直球だった。


「この案件、最後まで担う覚悟はあるか」


 私は、少しも迷わなかった。


「あります」


「なぜだ」


「途中で放り出せば、混乱が最大化します」

「感情的な理由は?」


「ありません」


 正確には、あった。


 だが、それを理由にするつもりはなかった。


「役割上、私が最適です」


 官僚は、私をじっと見た後、小さく笑った。


「……レイン殿が選ぶわけだ」


 ***


 夕刻。


 レイン様の療養先へ、報告書を送った。


 内容は簡潔。


 ――業務、滞りなし。

 ――改革案、第三段階承認。

 ――問題なし。


 返事は、短かった。


 ――了解。無理はするな。


 それだけ。


 けれど、その一文で十分だった。


 私は、一人で窓の外を見る。


 夕焼けが、庁舎を染めている。


 可愛げがない。

 そう言われ続けた私が、今ここにいる。


 求められたのは、愛想ではなかった。


 責任と、判断力。


 そして、前に立つ覚悟。


 私は、静かに机に向き直った。


 補佐ではない。


 代理でも、ない。


 今この瞬間、私は――

 この場の責任者なのだから。

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