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第91話:98日目の決断

配信98日目。


アカウント凍結という「法の鎖」によって声を奪われたはずの咲子が、予想だにしない方法で世界にその生存と決意を知らしめました。


佐藤家のリビング。エドワードが裏ルートで確保した衛星回線を通じ、

咲子は「咲良」としての声明を録画し、世界中の協力者たちの手で一斉に拡散させました。


「皆様、ごきげんよう。……そして、さようなら」


画面に映るのは、アカウントを削除されても何食わぬ顔で立つ咲良の姿でした。


「わたくし、明日から現地――B国へ向かいますわ。法がわたくしの声を禁じるのなら、わたくしは『命』を賭けて語り合うまでです。ニコライ、わたくしは逃げも隠れもしません。あなたと、正面からお茶を飲みに伺いますわ」


この「爆弾発言」は、瞬く間に世界中を駆け巡りました。


身バレどころか、命の危険すら厭わないその姿に、凍りついていたリスナーたちが一斉に動き出します。


「咲子さん、本当に行っちゃうんだね……」


出発の朝、佐藤家の玄関先。みゆが咲子の服の袖をぎゅっと掴んで離そうとしませんでした。


パパも、舞も、千尋も、かけるべき言葉が見つからず、ただ重い沈黙が流れます。


「ええ。みゆちゃん、わたくしが戻ったら、また一緒にお茶を飲みましょうね。……パパさん、居候の身で勝手ばかりして申し訳ありませんでしたわ。この家で過ごした日々は、わたくしの99年の人生で最も温かな『放課後』でした」


咲子は深々と頭を下げました。

その姿は、伝説の外交官でもVTuberでもない、ただのひとりの「花村咲子」でした。


門扉の外には、エドワードが手配した迎えの車が待機しています。


その上空には、彼女を護衛するかのように、名もなき市民たちが飛ばした数千の「平和の願い」を込めたドローンが舞っていました。


「さあ、行きましょうか」


咲子は佐藤家の面々に最後の手振りを送り、車に乗り込みました。


向かう先は、空港。そして、理性を失った怪物が待つ、火の海と化したB国です。


プライベートジェットのタラップを登る際、咲子は一度だけ空を見上げました。


(ニコライ……。あなたがあの時、わたくしに語った夢を……まだ覚えていますか?)

機体は轟音と共に滑走路を蹴り、厚い雲を突き抜けていきました。


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