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第81話:法の鎖

配信60日目を終えた翌朝。


佐藤家の静寂を破ったのは、激しいインターホンの音と、家の外に並ぶ黒塗りの車両の列でした。


玄関を開けたみゆの前に立っていたのは、数人のスーツ姿の男女と、その背後に控える警察官たち。彼らのリーダー格である男が、一枚の書類を突きつけました。


「櫻守事務所代表、並びに本宅に居候中の花村咲子さんですね。貴殿の配信は、現在進行中の国際紛争を著しく煽動し、公共の安全を脅かしていると判断されました。本日、裁判所より**『全プラットフォームのアカウント凍結』および、本宅への『強制捜索令状』**が発付されました」


役人の言葉は、冷酷な宣告でした。B国軍部からの強力な外交的圧力を受けた政府が、ついに「法」という名の公的な力を使い、咲子の声を物理的に封じ込めに来たのです。


「咲子さん! アカウントが……全部ログインできなくなっています! 公式ページも、予備のチャンネルも……すべて凍結されました!」


二階の自室から千尋が悲鳴を上げました。昨日まで1億人と繋がっていた「魔法の窓」が、国家の指先一つで真っ黒に塗りつぶされていく。それは、存在そのものを社会から抹消しようとする、音の出ない銃撃でした。


佐藤家のリビング。舞やみゆが青ざめる中、居候のあるじである花村咲子だけは、いつも通りお気に入りの椅子に座り、ゆっくりと茶柱の立った湯呑みを眺めていました。


「おほほ。……法律とは、弱者を守る盾であると同時に、強者が不都合な真実を隠すための蓋にもなるのですわね。居候の身でこれほどの手厚いお出迎えをいただけるとは、勉強になりますわ」


「咲子さん、笑い事じゃありません! すぐに役人たちが家の中に入ってきます。


機材も、サーバーも、全部持っていかれちゃう……!」 みゆが咲子の膝にすがりつきます。


しかし、咲子はみゆの頭を優しく撫でながら、窓の外、門扉の向こうに集まり始めた「ある光景」を見つめて、不敵に、けれど温かく微笑みました。


「みゆちゃん、焦る必要はございません。法がわたくしから『言葉』を奪うというのなら、わたくしは『存在』そのもので戦うまでですわ。……見てご覧なさい。わたくしたちの『放課後』は、家の中からだけではないのですよ」


家の外では、令状を手に突入のタイミングを計る役人たちの前に、予想だにしない「壁」が立ちはだかろうとしていました。

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