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第79話:戦争の「恥」

「……まだ、撃つのかしら?」


配信55日目。


咲子の問いかけは、もはや武器を構えることすらできない兵士たちの胸に、最後の一刺しを加えました。


世界中のSNSでは、ある「空気の変化」が決定的なものとなっていました。


かつては勇ましく戦況を語っていた者たちが沈黙し、代わりに「#WarIsShame(戦争は恥だ)」というハッシュタグが地球を覆い尽くしていました。


「相手を殺して勝つことが強さだという時代は、とうの昔に終わりましたの。今の時代、最も愚かで、最も格好悪く、最も『恥ずかしい』こと。それは、自分の子供に説明できない理由で、誰かの親を殺すことですわ」


この「恥」という概念の提示は、軍部にとって毒ガスよりも致命的でした。


B国の士気は完全に崩壊。徴兵を逃れる若者たちが「殺し合いなんてダサいことはしたくない」と公然と口にし始め、戦場は「英雄の舞台」から「恥さらしの檻」へと変貌したのです。


「……これ以上、あの女に喋らせるなッ!」


B国の総司令部で、ザイツェフ将軍の怒声が響きました。


パニックに陥ったのは軍の上層部でした。


彼らは直ちに、A国と結託けったくして巨大なサイバー検閲を発動しました。


「咲子さん、回線が! 世界中のプロバイダーが、私たちの配信を遮断し始めています!」

千尋が悲鳴を上げました。


画面が砂嵐に変わり、同時接続者数が急落していきます。

国家権力がその巨大な指で、一人の少女の口を塞ごうとしていました。


しかし、咲子は慌てるどころか、優雅に扇子を広げて見せました。


「おほほ。わたくしの声を消せば済むとお思いかしら? 既に世界中の人々の心には、わたくしが蒔いた『恥』の種が根を張っていますのよ。……千尋、予備のサテライト回線に切り替えなさい。わたくしの私財で買い取った専用衛星、そろそろ出番ですわ」


「専用衛星!? 咲子さん、いつの間に……」


「外交官時代、万が一に備えて宇宙の『隙間』を確保しておきましたの。国家に消せない声が、ここにはありますわ」


遮断されたはずの画面が、再び鮮明に浮かび上がりました。


その映像は、検閲を潜り抜け、絶望していた視聴者たちの元へと再び届けられました。


佐藤家の玄関先では、武装した警官隊が「国際煽動せんどうの疑い」で突入の機会を伺っていました。


「咲子さん、もう外が……!」 みゆちゃんが震える声で叫びます。


「みゆちゃん、落ち着きなさいな。わたくしたちがやっているのは、世界で最も平和な『放課後』の雑談ですわ。……さあ、明日は60日目。わたくしを殺そうとする独裁者の方々に、直接ご挨拶を差し上げなければなりませんわね」


咲子の瞳には、国家権力さえも射すくめるような、冷徹で気高い光が宿っていました。


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