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第75話:救われるということ

「咲子さん、見てください……! これ、全部日本のリスナーたちが検証した資料です!」


千尋がモニターに映し出したのは、一晩で数万ページにも及ぶ膨大な解析データの山でした。


映像クリエイターが影の角度から撮影日時を特定し、植物学者が背景の木々から場所の矛盾を突き止め、音響マニアが銃声の周波数を解析して「これはB国製の古い銃だ」と断定していました。


世界中が咲子を「虐殺の片棒を担いだ」と罵る中で、日本のリスナーたちは一歩も引かず、睡眠を削って彼女の無実を証明するための「盾」を作っていたのです。


「……おほほ。わたくし、教え子たちを少々甘く見ていたようですわね」


咲子はモニターに流れる、不器用で、けれど情熱に満ちたリスナーたちのメッセージを一つ一つ静かに読み上げました。


『咲良さんが嘘をつくはずがない』


『いつも俺たちの話を聞いてくれただろ。今度は俺たちが話を聞く番だ』


生涯を他国との駆け引きに捧げ、常に「救う側」として孤独に耐えてきた咲子の胸に、これまでにない温かい感情が込み上げました。


99年と3年という長い人生で初めて知る、**「顔も知らない誰かに救われる」**という感覚。彼女の瞳に、うっすらと涙が浮かびます。


「みゆちゃん。……わたくし、少しだけ欲が出てしまいましたわ。この子たちがいる世界を、どうしても壊させたくありませんの」


「咲子さん……」


みゆちゃんはそっと、咲子の震える背中に手を添えました。


その翌日。全世界が注目する中、咲子の生配信が始まりました。


画面には、リスナーたちが集めた膨大な検証資料が、これ以上ないほど分かりやすく整理されて並んでいました。


「皆様、ごきげんよう。……昨日、わたくしを罵った方々。お疲れ様でしたわね。感情に身を任せるのは簡単ですが、それでは『誰か』の用意した台本の上で踊るお人形と同じですわ」


咲子の言葉は、いつになく鋭く、そして慈愛に満ちていました。


彼女は一つずつ、B国が流した捏造動画の矛盾を、完璧な論理で解体していきました。


「この動画を作った方は、少し勉強が足りなかったようですわね。この影の角度、この音の反響。……わたくしのリスナーたちが、一夜にしてあなたの嘘を暴いてしまいましたわよ?」


チャット欄の罵詈雑言が、次第に驚きと感嘆へと変わっていきます。捏造を信じ込まされていた人々が、目の前の圧倒的な「事実」に沈黙し始めました。


「騙されることを、恥じる必要はございません。それだけ、平和を願う心が強かったということですわ。……ですが、騙されたと気づいた時、その怒りを他者への憎しみではなく、真実を見極める『知恵』に変えてご覧なさいな」


咲子は画面越しに、まるで世界中を抱きしめるように優しく微笑みました。


「わたくしは、あなた方を信じておりますわ。……信じることを、誇りに思いなさいな」


その瞬間、世界中の端末から憎しみの色が消え、安堵と希望の光が灯りました。


捏造を画策したザイツェフ将軍さえも、モニターの前で、震える手で本を握りしめていました。


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