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第73話:スープの奇跡(後編)

配信11日目。


ネット上の「スープの対話」は、ついに物理的な境界線を越えようとしていました。


場所はA国とB国の最前線、通称「沈黙の谷」。


昨日まで激しい砲撃戦が続いていたこの場所に、一人のA国兵士が姿を現しました。


彼は自身のSNSにライブ動画をアップロードしながら、銃を地面に置き、両手を上げて塹壕から這い出しました。その手に握られていたのは、一本のスープの缶詰でした。


「……撃つな! 俺はただ、これを温めたいだけだ!」


彼の叫びが凍てつく野原に響きます。対峙するB国の塹壕では、数十の銃口が彼に向けられていました。


一瞬の静寂。誰もが死を予感したその時、B国の塹壕からも、一人の若い兵士が姿を現したのです。


彼は無言のまま、自分の持っていた固形燃料のストーブを差し出しました。


やがて、どちらからともなく火が焚かれ、一つの鍋を二人の敵兵が囲みました。


『……これ、俺の国のにしては少し甘いな』


『あの日、咲良が言ってた隠し味を入れたんだ。……お前も、飲むか?』


その様子はドローンや兵士たちのスマホを通じて、瞬く間に世界中に拡散されました。


一人が銃を置くと、隣の兵士も、その隣の兵士も、まるでドミノ倒しのように銃を置いていきました。


国境線のあちこちで、敵と味方がスープの缶詰を見せ合い、笑い合う

——歴史上、類を見ない「スープによる停戦」が起きたのです。


佐藤家のリビング。配信を終えた咲子は、その映像を静かに見守っていました。


「咲子さん、見て……! 兵士たちが笑ってる。本当に、戦争が止まっちゃった!」


みゆちゃんが、感極まったようにモニターを指さしました。


しかし、咲子の表情は晴れませんでした。

「おほほ。みゆちゃん、平和の産声というのは、常に権力者の耳には『不快な雑音』として届くものですわ。……彼らがこのまま、わたくしの平和な放課後を続けさせてくれるはずがありませんもの」


その言葉通り、事態は急転します。


この平和な光景に激怒したB国の軍上層部。


ザイツェフ将軍は、全軍に「敵との接触は反逆罪と見なし、即刻射殺せよ」という非情な命令を下しました。


そして配信30日目。事態は最悪の形で動き出します。


B国の国営放送が、一本の「衝撃的な映像」を全世界に発信したのです。


それは、A国兵士がB国の無抵抗な村を焼き払い、スープを配っていたはずの兵士たちが住民を虐殺しているという、あまりに凄惨な動画でした。


『咲良に騙されるな。彼女の「平和」は、血塗られた欺瞞である』


そのテロップと共に、世界中のSNSは再び反転しました。


『やっぱり詐欺師だ』『咲良のせいで油断して、多くの人が死んだんだ!』。


昨日まで彼女を讃えていた人々が、今度は手のひらを返したように殺人的なバッシングを浴びせ始めました。


「……いよいよ、来ましたわね。知恵の盾が必要な時が」


咲子は、荒れ狂う誹謗中傷の嵐を見つめながら、静かに扇子を閉じました。


第12話予告:捏造された虐殺動画によって、世界中から「戦犯」扱いを受ける咲子。


しかし、その動画にはある「致命的な矛盾」が隠されていた。咲子を救うため、日本のリスナーたちが立ち上がる。「俺たちが、咲良さんの知恵の盾になる!」


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