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第70話:名もなき盾の連帯

『【悲報】VTuber咲良、国際問題へ。これもうテロだろ』


『ガチで迷惑。日本の恥。政府は早く身元特定して引き渡せよ』


『世界が100日後に終わるとか、統合失調症のババアが配信してるってマジ?』


ネット上の巨大掲示板やSNSは、咲良に対する凄まじい「処刑勧告」で埋め尽くされていました。


A国・B国の支持者たちが入り乱れ、彼女を「敵国のスパイ」や「平和を弄ぶ狂人」と決めつける投稿が1秒に数百件のペースで流れていきます。


「咲子さん……もうコメント欄は地獄です。SNSでも『#咲良を消せ』がトレンド1位で……」


三姉妹の次女、舞が震える手でタブレットを押さえながら報告します。


世界中の「正義」が、たった一人の少女を悪と断じ、その存在を消し去ろうと包囲網を狭めていました。


しかし、その暗闇の底で、一つの書き込みが静かに、けれど力強く光を放ちました。


『……おい。お前ら、今の咲良さんを叩いてるけど、忘れたのか?』


それは、彼女がVTuberを始めたばかりの頃からの古参リスナーによる投稿でした。


『三年前、俺が仕事で大失敗して、夜の橋の上にいた時。咲良さんは配信で「石ころを見て笑いなさい」って言ってくれた。俺はあの言葉があったから、今も生きてる。狂人なもんか。あの人は、俺たちの光だぞ』


その投稿を合図に、堰を切ったように日本のファンたちが声を上げ始めました。


かつて彼女のお悩み相談に救われ、画面越しの彼女を「おばあちゃん」のように慕ってきた、名もなき人々です。


『私は育児ノイローゼで消えたかった時、咲良さんの声で夜を越せた。今度は私が守る番だ』

『会社が倒産して絶望してた俺に、一晩中寄り添ってくれたのは咲良さんだった』

『#咲良さんは俺たちの光』


「……見て、咲子さん! 日本のリスナーたちが、アンチのタグを押し返し始めてる!」


千尋が歓声を上げました。


世界中の憎悪を相手に、権力も武器も持たない庶民たちが、自分たちの「大切な場所」を守るために盾を構え、連帯し始めたのです。


佐藤家のリビング。咲子はみゆが淹れてくれた温かいお茶を口にし、ふっと目元を緩めました。

「おほほ。嬉しいことですわね。わたくしが守りたかった小さな平穏が、今度はわたくしを守ってくださるなんて」


「咲子さん、でも……まだ反対派のデモ隊や記者がニュースになってます……」


みゆが不安そうにリビングのテレビを見つめます。


「大丈夫ですわよ、みゆちゃん。連帯とは、何も武器を持つことだけを指すのではございません。……さあ、明日からの授業は少し趣向を変えましょう。皆様の『胃袋』に直接、平和の味を教え込んで差し上げますわ」


咲子の瞳には、すでに次なる一手が映っていました。


「言葉」という名の地政学。それは、かつて彼女が「ある少年」に教えた、世界を繋ぐための「食卓の魔法」の再演でした。



次回より、だいぶ放置されている一期生の章が始まります

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