58.一期生たちの告白――「あの人は、一体何者なのですか?」
咲良という嵐のような存在がVTuber界に現れてから、数ヶ月。彼女の最も近くにいた一期生ライバーたちは、佐藤家の応接間で密かに「緊急会議」を開いていました。
メンバーは、炎上から救われた結城ましろ、キャンプでひょっとこを被らされたきつねうどん担当、そしてたぬきそば担当の3人。
彼女たちの話題は、もちろん自分たちの「師」であり「祖母」のような存在である咲良のことでした。
ましろの視点:背中に見た「巨人の影」
「……正直、怖かったよね、あの時の咲良さん」
ましろが、あの日助けられた配信を思い出しながら呟きました。
「私のために怒ってくれた時、咲良さんの後ろに、なんだか戦場とか、議事堂とか、見たこともない大きな世界の景色が見えた気がしたの。
ただのアバターのはずなのに、一瞬、巨大な盾に見えたというか……。私、あんなに『この人には一生勝てない』って思ったことないよ」
彼女にとって咲良は、自分を甘やかしてくれる優しいおばあちゃんであると同時に、決して超えられない、果てしない経験の塊のような「巨人」でした。
「きつね」と「たぬき」の視点:カオスと慈愛の二段構え
「私は……今でも夢に見るよ。あのひょっとこの面」
きつねうどん担当のライバー(豊作みのり)が、遠い目で言いました。
「最初は、ただのぶっ飛んだおばあちゃんだと思ってた。
でも、ルンバを三郎って呼んで可愛がったり、お茶を淹れる時のあの完璧な所作を見ていると、時々、自分たちがすごくちっぽけな存在に思えてくるんだよね。
私たちが数字だの登録者数だので一喜一憂してるのが、彼女の目には『子供の砂遊び』みたいに見えてるんじゃないかって」
たぬきそば担当(鈴蘭)も頷きます。
「そうそう。でも、突き放すんじゃなくて、一緒に砂場で遊んでくれるんだよね。自分もひょっとこ被って泥だらけになりながら。
『いいのよ、もっと派手に転びなさいな』って。あの余裕、どこから来るんだろう」
「佐藤代表」という謎のスパイス
「あとさ……佐藤代表との関係も謎じゃない?」
3人は顔を見合わせます。
事務所の代表である佐藤は、社員には厳しいことで有名ですが、咲良の前でだけは、まるで「叱られた小学生」のように背筋を伸ばし、おどおどしています。
「代表が、咲良さんの食べ残した大福の粉を、恭しく片付けてるの見たことある。あれ、絶対に『孫』の動きだよね。……というか、咲良さんって本当に佐藤家の人間なのかな。それとも、もっと……国家レベルの何か?」
結論:私たちは「歴史」の隣にいる
会議の終盤、ましろがポツリと言いました。
「私、最近思うんだ。咲良さんは、私たちにVTuberとしての技術を教えに来たんじゃない。……『人間としての誇り』を教えに来てくれたんじゃないかなって。誰かを守ること、正しくふざけること、そして、最後まで自分を諦めないこと」
その時、応接間のドアがガラリと開きました。
「あら、皆様。こんなところで密談ですこと? 悪い企みなら、わたくしも混ぜてくださらない?」
そこには、ひょっとこの面をおでこに乗せ、手に山盛りの大福を持った咲良が立っていました。
「さあ、お茶を淹れましたわよ。三郎が運んでくるから、こぼさないように受け取ってちょうだい」
「三郎が運んでくるの!?」「また魔改造したんですか!?」「あはは、やっぱり勝てないや!」
一期生たちの笑い声が響く中、ましろは確信しました。咲良が何者であっても構わない。
この人の隣で、この人が守ろうとする「未来」の一部でいられることが、自分たちにとっての最大の幸運なのだと。




