56.未来を拓く「鉄の盾」――炎上の火中に咲く一輪の桜
親友・節子との別れを経て、「若者たちの未来を守る架け橋」としての使命を再確認した咲良。
その覚悟を試すかのような試練は、すぐに訪れました。
一期生の後輩であり、先日相談に乗ったばかりの結城ましろが、心ない「切り抜き動画」と「デマ」によって、SNSで激しい炎上にさらされたのです。
騒動の発端は、ましろが配信中にこぼした「最近、ゲームを純粋に楽しむのが難しい」という何気ない一言でした。
それが悪意ある編集により「リスナーの応援が迷惑」「ゲームへの愛がない」という文脈に書き換えられ、拡散。
SNS上では「引退しろ」「裏切り者」といった苛烈な言葉が飛び交っていました。
運営も対応に苦慮し、ましろはショックで自室に引きこもってしまいます。
佐藤家の居間でその惨状を見た咲子は、静かに、しかし冷徹な怒りを燃やしました。
「……人の善意を泥靴で踏みにじる行為。外交の場であれば、宣戦布告に等しい無礼ですわ」
咲良は突如、緊急生放送を開始しました。タイトルは**「皆様、少しお耳を貸してくださらない?」**。
黒一色のアバター衣装を纏い、いつもの「おほほ」という笑い声を一切封印した彼女の姿に、野次馬やアンチも戦慄しました。
「今、一人の若い女性に対して、言葉の暴力を振るっている皆様へ申し上げます。……恥を知りなさい」
その声は、かつて紛争地で独裁者を一喝した時と同じ、震えるほどの重圧を持っていました。
「情報の断片だけを掬い上げ、真実を確かめもせず、集団で弱者をいたぶる。それがあなた方の誇る『正義』なのですか? ……わたくしは99年という月日の中で、そうした『集団の狂気』が国を滅ぼし、未来を焼き尽くす様を何度も見てきましたわ」
咲良は単に感情的に怒るだけではありませんでした。彼女は外交官時代に培った緻密な「調査能力」を発揮しました。
「ちなみに、このデマの元となった動画を編集し、最初に拡散したアカウントの主様。……あなたの特定は既に終わっておりますの。法的な手続きは、佐藤代表(運営)が速やかに行うでしょう。……わたくしが今ここで、あなたの『過去の不祥事』を読み上げてもよろしいですのよ?」
咲良は冷笑を浮かべ、資料をパラリと捲る仕草をしました。
もちろん、これはブラフも含まれていましたが、彼女の放つ凄まじい「リアリティ」に、攻撃者たちは一斉に沈黙し、投稿が次々と消え始めました。
「若者は、失敗するものです。迷うものです。
それを支え、導くのが先達の役目。……わたくしがここにいる限り、未来ある子たちの芽を、摘ませるわけにはまいりませんの」
騒動を力技で鎮圧した後、咲良は最後にトーンを和らげ、画面越しにましろ、そして震えるリスナーたちへ語りかけました。
「ましろさん、顔を上げなさい。わたくしの背中は、少しばかり広いですよ? 悪い大人が来たら、いつでも隠れにいらっしゃいな。……そして皆様。どうか、言葉を剣ではなく、誰かの傷を癒やす包帯としてお使いなさい。それが、平和な時代を生きる皆様の『特権』なのですから」




