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54.深夜の縁側――一期生の涙と、導きの「お節介」

ある日の配信後、佐藤家のインターホンが控えめに鳴りました。


そこに立っていたのは、一期生の看板ライバーであり、かつて「きつねうどん」の着ぐるみで咲良と一緒にキャンプをした**「結城ゆうきましろ」**でした。


いつもは元気いっぱいの彼女ですが、今夜は肩を落とし、今にも泣き出しそうな顔をしています。


咲子はましろを縁側に招き、みゆが淹れた熱いほうじ茶を差し出しました。


「ましろさん、そんなに俯いていては、せっかくの可愛らしいお顔が台無しですわよ」


咲子の優しい声に、ましろの緊張の糸がぷつりと切れました。


「咲良さん……私、もう分からないんです。数字(同接)を追うのが怖くなって、リスナーさんが求めている『結城ましろ』を演じるのに疲れちゃって……。私、才能ないのかなって」


VTuberという、常に比較され、評価される過酷な世界。一期生として先頭を走り続けてきた彼女の心は、限界を迎えていました。


咲子は静かに茶をすすり、冬の庭を見つめながら語り始めました。


「ましろさん。わたくしも昔、同じような壁にぶつかったことがありますわ。国を背負って交渉の場に立つ時、わたくしは『櫻守咲子』という一人の女性ではなく、完璧な仮面を被らなければなりませんでした」


彼女はましろの冷えた手を、そっと両手で包み込みました。


「仮面が肌に張り付いて、本当の自分がどこにいるのか分からなくなる……。それは、あなたが真面目に、誠実にその道を歩んでいる証拠ですわ。才能がない人間に、そんな苦しみは訪れません」


「数字というものはね、ただの『記号』に過ぎません。あなたが向き合うべきは、万単位の数字ではなく、その向こう側にいる『たった一人の寂しい誰か』ではありませんこと?」


咲子は悪戯っぽく微笑み、ましろの鼻先を指で突きました。


「たまには、仮面をひょっとこのお面に変えてしまえばよろしいのです。わたくしがキャンプでやったように。……失敗したって、格好悪くたって、あなたが笑っていれば、それを愛してくれる人は必ずいますわ」


「明日からの配信は、誰かのためではなく、あなた自身の心が一番喜ぶことをなさいな。責任は、このわたくしが取って差し上げます」


ましろは驚いたように顔を上げ、咲子の揺るぎない瞳を見つめました。その瞳には、歳月をかけて培われた、人間に対する深い信頼と愛が宿っていました。


「……私、もう一度、やってみます。自分の好きなゲーム、思いっきり楽しんでみます!」


涙を拭い、立ち上がったましろの表情には、いつもの輝きが戻っていました。


彼女を玄関まで送り出した後、咲子は夜空を見上げて独り言を漏らしました。


「……ふふ。若い子のお節介を焼くのも、なかなか悪くないものですわね。……ねえ、みゆ。わたくしたちも、明日はとびきりふざけた配信をしましょうか?」


「ええ、おばあ様。三郎ルンバのメンテナンスはバッチリですわよ」


暗い夜の中でも、佐藤家からは明るい笑い声が漏れていました。


後日:結城ましろの配信にて


翌日のましろの配信は、自分の大好きなレトロゲームを、喉が枯れるまで叫びながら楽しむ彼女の姿に、チャット欄はかつてないほどの温かさに包まれました。


視聴者コメント

「今日のましろ、めっちゃ楽しそう!」

「数字気にしてた時より、今のほうがずっといいよ!」

「これ、咲良ちゃんの教えかな?w」


それを見た咲良は、裏垢でこっそりと「てぇてぇですわ……」とコメントを残すのでした。

いつも誤字報告ありがとうございます。

皆様のおかげで、連載中ヒューマンドラマで6位まで入りました。


あと少し評価が必要なので、

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