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40.余韻と日常――「踊り場」の知恵

櫻守フェスの興奮から数日が経ち、世間はまだ「七色の虹」の奇跡を熱狂的に語り合っていました。


しかし、当の咲良(咲子)は、静まり返った屋敷の居間で、一人静かに茶を点てていました。


「ふふ、皆様、あの日で少し心が柔らかくなったのかしら。よろしいですわ。今夜は歌も企画もなし。温かいお茶を片手に、皆様の『心のささくれ』を丁寧に取り除いて差し上げましょう」


その夜、200万人が見守る中で始まったのは、画面越しに湯気が立ち上るような、静かな雑談配信でした。


相談1:若手社会人より

「大きな仕事を任されましたが、プレッシャーで足がすくみます。咲良さんは、どうやって大舞台で平然としていられるのですか?」


咲良は画面の中でふっと目を細め、遠い記憶を辿るように語り始めました。


「わたくしもね、かつて……そう、若かりし頃。どうしても失敗できない大切な『約束の席』で、手が震えて震えて、どうしようもなくなったことがありましたわ。


その時、わたくしの師がこう言ったのです。


『咲良、あなたが向き合っているのは、目の前にいるたった一人の人間。その方との誠実なやり取りだけを考えなさい』と。



皆様、プレッシャーの正体は『自分を大きく見せようとする欲』です。数万人を相手にするのではなく、あなたの仕事を受け取る『誰か一人』の笑顔だけを想像なさいな。


そうすれば、足元は自ずと固まりますわ。全責任を一人で負おうなんて、傲慢というものです」



相談2:人間関係に悩む学生より

「親友だと思っていた人に裏切られました。もう誰も信じられません」


チャット欄が同情の言葉で埋まる中、咲良はあえて淡々と、しかし深く慈しむようなトーンで答えました。


「それはお辛い経験でしたわね。でもね、裏切られたということは、あなたがそれだけ誠実に相手を『信じた』という証拠。それは誇るべき強さですのよ。


わたくしが長く生きてきて学んだのは、『信じる』とは相手を盲信することではありません。


相手が期待通りに動かない可能性すら飲み込んだ上で、『それでも自分は誠実であり続ける』と決める覚悟のことです。


相手に期待するのをやめなさい。


その代わり、自分自身の『信じる力』を信じるのです。裏切った方は、一生その重荷を背負いますが、あなたは今日から新しい、もっと純度の高い信頼を探しに行けるのですから」



相談3:夢を諦めそうな個人勢VTuberより

「どれだけ頑張っても数字が伸びません。自分には才能がないのでしょうか」


咲良は少しの間を置いて、画面の向こうの「後輩」を愛おしむように語りかけました。


「才能、という言葉は便利ですが、時に毒になりますわ。わたくしがこれまで見てきたのは、才能のある人間ではなく『しつこい人間』が最後に笑う姿です。


配信も人生も、今は『踊り場』にいるだけ。階段を上り続けるには、一度足を止めて息を整え、景色を眺める場所が必要ですの。


数字はただの風。風が吹かない日は、自分の根っこを深く張ることに専念なさいな。


根が深ければ、次に風が吹いた時、あなたは折れずに誰よりも高く、しなやかに揺れることができますわ」

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