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36.桜吹雪の快進撃――ミリオンへの道

「株式会社 櫻守さくらもり」の事務所として佐藤家の一角に設けられた応接室には、今日もぴりりとした緊張感と、それ以上に温かな「希望」の香りが漂っていた。


夜逃げした前事務所「スターライト」から救済された10人のライバーたち。


彼女たちは、ネット上では「悲劇のヒロイン」として同情を集めていたが、その内実はボロボロだった。


不当な契約、罵倒に近い指導、そして突然の放置。


彼女たちの瞳からは、かつて持っていたはずの「表現したい」という輝きが失われ、代わりに「失敗したら、また捨てられるのではないか」という怯えが住み着いていた。


その凍りついた心を溶かしたのは、裏のプロデューサーである咲良(咲子)が淹れる、一杯の茶であった。


個別の茶室面談――「魂」の輪郭をなぞる


咲良は、10人を一度に集めることはしなかった。


一人ずつ、隣の屋敷の静かな茶室に招いた。


アバター越しではなく、生身の彼女たちと向き合うためだ(もちろん、咲良自身は「18歳の少女・咲良」としてではなく、落ち着いた雰囲気の「大家の咲子さん」として彼女たちを迎え入れた)。


「さあ、楽になさって。ここはただの茶室ですわ。ノルマも、炎上への怯えも、ここには届きません」


ある子は、人気が出るために無理をして「毒舌キャラ」を演じていた。


またある子は、流行りのゲームを一日10時間プレイし続け、精神を摩耗させていた。


彼女たちの告白を静かに聞いた後、咲良は優しく、しかし断固とした口調で告げた。


「あなたたちは、誰かの真似をする必要はありません。数字を追うために自分を削るなど、愚かなことです。……自分の中にある『一番古い記憶』や『本当に愛しているもの』を、誠実に語りなさいな。知恵とは、飾るものではなく、さらけ出すもの。あなたが心の底から愛しているものを語る時、その言葉は誰にも真似できない『武器』になりますわ」


咲良のプロデュースは、単なるキャラクター付けではなかった。


例えば、実家が農家であることを隠していた子には、「土に触れる喜びと、生命の循環」を語る教養派ライバーへの転換を勧めた。


無理なガチ恋営業で今にも爆発しそうな爆弾のような子には、少しずつヒアリングして、解決策へアプローチを進めた。


彼ら彼女は、すぐに変えることはできないものの、

いつか変えてみると少しずつ考えを変えている様子を見せている。


「自信を持ちなさい。わたくしが、あなたたちの背負う『泥』はすべて払って差し上げます。あなたたちはただ、自分という花を咲かせることだけを考えれば良いのです」


組織化:三人の女神と「影の監督官」


咲良の描く「魂の設計図」を現実の形にするため、彼女は自ら、厳しい選考基準で三名の女性マネージャーを採用した。


彼女たちはそれぞれ、業界で「有能すぎて扱いづらい」と敬遠されていた、あるいは理想が高すぎて孤立していたスペシャリストたちだった。


マネージャー 亜美あみ[法務・契約担当] 「演者の権利を守れない契約書は、ただの紙屑です」と断言する鉄の女。咲良の指示の下、10人の契約を「日本一クリーン」な内容に書き換えた。


マネージャー まい[制作・技術担当] 咲良が語る「和の様式美」や「空気感」をVR空間に再現するため、最新のレンダリング技術を駆使する職人。彼女の手により、櫻守の配信画面は「美術館のような美しさ」と称賛されるようになった。


マネージャー 千尋ちひろ[渉外・広報担当] 咲良の構築した「ブランド戦略」を武器に、企業案件を選別する門番。単なる広告ではなく、演者の価値を高める「タイアップ」のみを勝ち取ってくる。


彼女たちのルーチンは、毎朝、咲子の元へ活動報告に赴くことから始まる。


咲良は、18歳の少女の姿でタブレットを手に取り、恐ろしい速度でスクロールする。


「……亜美。この海外プラットフォームとの契約、第5条第3項の文言が曖昧ですわ。演者の二次創作権を侵害する恐れがあります。修正させなさい。……舞。この3Dモデルの影の落ち方、不自然ですわ。もっと光源を絞って。……千尋。この企業案件は断りなさい。今の彼女の純粋さを損ないます」


奇跡の全員100万人突破――桜吹雪の快進撃


咲良の「魂のプロデュース」、三人のマネージャーによる「完璧な実務」、そして佐藤代表という「信頼の重し」。


この三位一体が噛み合った瞬間、爆発的な化学反応が起きた。


活動再開から一ヶ月目。 事務所を変更して再出発した子が、深夜の「雑談」で同時接続数5万人を記録。彼女の語る「感謝」は、都会で疲れたリスナーたちの心に深く刺さった。


二ヶ月目。 生き物ライバーが、生物観察の様子を詳細に伝える配信をスタート。

ニッチなジャンルではあるが、その豊富な知識にマニアが少しずつ集まり始めた。


そして三ヶ月目。 一期生10人全員が、チャンネル登録者数100万人ミリオンを達成するという、VTuber史に刻まれる金字塔を打ち立てた。


ネット上では、この現象を「櫻守の奇跡」と呼んだ。かつて「使い捨ての駒」だった彼、彼女たちが、咲良という「幹」に支えられ、世界で最も美しい「桜」として咲き誇ったのである。

予告:一期生一人一人の闇と覚醒は、ep.74~描きます

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