32.仁義なき夜逃げ――咲良、会社を興す
VTuber界を激震が襲いました。業界大手第3位「スターライト・エッジ」の運営会社が、巨額の負債を抱えたまま事実上の破産。
あろうことか経営陣は、所属する数百名のVTuberに数ヶ月分の給料を払わず、深夜に事務所の機材やデータを持ち出して失踪したのです。
「……信じられませんわ。夢を預かる者が、その夢を食いつぶして逃げ出すなんて。これは『商い』ではなく、ただの略奪。私の愛するこの場所を、泥足で踏み荒らす行為ですわね」
画面越しに、活動継続が不可能になったと泣き崩れる新人たちの姿を見た咲良の瞳に、かつて外交の最前線で国家間の火種を消し止めてきた時のような、鋭く、底知れない怒りの炎が宿りました。
隣家での「戦略会議」
配信を終えた咲子(現実の姿)は、すぐに隣家に住む大学生のみゆちゃんを呼び出しました。みゆちゃんは咲良の正体を知る数少ない理解者であり、一番のファンです。
「みゆちゃん、緊急の相談よ。路頭に迷ったあの子たちの『盾』になりたいの。自営業をされているお父様に、今すぐお力添えをいただけないかしら?」
事情を聞いたみゆちゃんは、即座に立ち上がりました。
「咲良さん、任せて! うちのパパ、昔から『曲がったことは許さねえ』が口癖の熱血漢だし、業界の理不尽が大嫌いなの。今すぐ連れてくる!」
数分後、みゆちゃんの父親である佐藤さんが、仕事着のまま駆けつけました。
「咲良さん、話は娘から聞いたぜ! ……酷い話だ。若い連中が必死に築き上げたものを、大人が持ち逃げするなんて、男の風上にも置けねえ。俺の法務知識と人脈、全部貸してやる。何から始める?」
咲良は、かつて数兆円の予算を動かした時のような冷静さで指示を出しました。
「まず、法人登記を爆速で進めますわ。名前は**『株式会社 櫻守』**。私がこれまで一切手をつけずに貯めていたスパチャ資金……数億円ありますが、これをすべて資本金と救済基金に充てます。佐藤さんは代表として、法的な手続きと、夜逃げした経営陣の足取りを追ってくださいな」
配信での宣誓:逃げ得は許さない「鉄槌」
その日の夜。咲良は、自身のチャンネルで緊急生放送を開始しました。タイトルは**『路頭に迷う皆様へ――新しい家を用意しました』**。
「『スターライト・エッジ』の所属だった皆様。……そして、悲しみに暮れるファンの皆様。泣くのは今日までにしなさい。私が、あなたたちの新しい家を用意しましたわ」
視聴者コメント
「えっ、事務所立ち上げた!? 嘘だろ!?」
「個人勢の頂点が、ついに業界の救済に乗り出した……」
「資本金数億ってマジかよ、咲良ちゃん本気だ……!」
咲良は、佐藤さんの助言を元に作成した「櫻守」の契約条件を画面に提示しました。
「収益のほとんどは演者に還元します。運営の取り分は、システムの維持費と法的な保護費用のみ。
……そして、夜逃げした元経営陣の方々。世界は広いようで狭いものですわ。私の……いえ、我が社の佐藤代表のルートで、あなた方の所在はすでに特定しつつあります。**海外へ逃げようとしても無駄です。私の知恵と資金を舐めてはいけません。**未払い分は一円残らず、法的に清算させていただきます」
その時の咲良の声は、優しさを湛えながらも、一切の妥協を許さない「執行者」の響きを持っていました。
悪徳経営者への「チェックメイト」
配信中、なんと失踪した経営者の一人が「匿名の通話」で繋がってきました。
「勝手なことをするな! 会社は破産手続き中だ、お前のような素人が口を出すな!」
咲良は、茶碗を置く音一つさせず、冷徹に返しました。
「……素人、ですか。ふふ、面白いことを。あなたが隠蔽しようとしている別口座の資金移動、そして機材の横流しの証拠。すべて佐藤さんの協力で、関係各所へ提出済みですわ。あなたが今いるそのホテル、まもなく……あら、もう扉が叩かれている頃かしら?」
その直後、通話の向こうで激しい怒号と、警察と思われる声が響き、通信は途絶えました。
視聴者コメント
「リアルタイムで逮捕まで追い込んだwww」
「咲良ちゃんの『まもなく』が怖すぎる」
「隣の佐藤パパ、何者だよ! 連携がプロすぎるw」
「悪徳企業を5分で解体した……伝説だわこれ」
配信終了後:新しい家族
「咲良さん、かっこよすぎ! パパも『こんなにスカッとする仕事は初めてだ』って興奮してたよ」
みゆちゃんが、興奮冷めやらぬ様子でお茶を淹れ直します。
「ふふ、みゆちゃん、ありがとう。若者の熱意と、大人の筋の通し方……。これらが合わされば、崩れかけた業界に、もう一度真っ当な『王道』を通せるはずよ。明日からは、新しい家族……あの子たちのケアを始めましょう」
咲良は、窓の外に広がる夜景を見つめました。
「世界一のVTuber」への道は、今や悪徳をなぎ倒し、迷える才能を救い上げる**「VTuber界の守護神」**としての歩みへと、決定的な進化を遂げたのでした。
(補足:この話のあと、咲子は自宅との行き来が面倒になり、佐藤家に居候を始めます。)




