29.99歳の経営論――覇道か、王道か
登録者50万人を突破した咲良のもとに届いたのは、なんと日本を代表する巨大テック企業「ダイモン・グループ」のトップ、大門寺社長からのコラボ依頼でした。
大門寺氏は「合理性と数字がすべて」と公言する冷徹な経営者。そんな彼が、咲良の「感情と経験に基づく配信」に興味を持ったのです。
配信スタート:冷徹な数字 vs 深い洞察
「……さて。咲良さん。私はあなたの配信を見ていて不思議でならない。
なぜ、何のデータ的な裏付けもないあなたの言葉に、これほど多くの人間が熱狂し、経済まで動くのか。
今のビジネスにおいて、あなたのやり方は**『非効率の極み』**に見える」
画面の向こうで、大門寺社長は組んだ腕を解かずに問いかけます。
視聴者コメント
「大門寺社長きた! 圧がすごすぎる」
「知性の頂上決戦第2弾か?」
「咲良ちゃん、これビジネス論破されるんじゃ……」
咲良は、ゆっくりと茶碗の蓋を開け、湯気を楽しみながら答えました。
「大門寺さん、あなたの仰る『効率』は、確かに富を生むでしょう。
でもね、経営の本質は数字ではなく**『人』**にあるのよ。
かつて私が……いえ、歴史を振り返れば、どれほど強大な組織も、人の心が離れた瞬間に砂の城のように崩れていったわ」
現代経営学への「知恵」の介入
「ふん。心などという不確かなものを管理するより、AIとシステムで制御する方が確実だ。私の会社はそれで世界を獲った」
「それは『管理』であって『経営』ではないわ。
大門寺さん、あなたは**『マズローの欲求階層』の最上階……自己実現の先にあるものを忘れていないかしら? 現代の人々が求めているのは、便利な道具だけではなく、自分の存在を肯定してくれる『物語』**なの。
私がPCを紹介した時、皆様が買ったのは半導体の塊ではなく、私との『信頼』という名の物語だったのですわ」
咲良はここで、渋沢栄一の「論語と算盤」を引き合いに出し、
現代の経営に必要なのは「道徳(信頼)」と「利益」の合致であると説きました。
「あなたが信じる『覇道(力による統治)』は短期的には勝てますが、永くは続かない。私が目指すのは、皆様と共に豊かになる『王道』なの。……大門寺さん、あなたの会社の離職率が最近上がっている理由、ご自分でも気づいているのではなくて?」
大門寺社長は、一瞬だけ言葉を失い、その後、豪快に笑い出しました。
「……ははは! 参ったな。18歳の少女に、我が社の内部事情まで見抜かれるとは。
……確かに、私は数字ばかりを追い、社員の『顔』を見ていなかったのかもしれない。あなたの言う『物語』、少し興味が出てきたよ」
配信の最後、大門寺社長は咲良に深々と一礼しました。
「咲良さん。もしあなたがVTuberを辞めることがあれば、ぜひ我が社の**『終身顧問』**になっていただきたい。……いや、今すぐにでも月1回の経営相談を受けてくれないか?」
視聴者コメント
「天下の大門寺社長を教育したwww」
「18歳の顧問とか強すぎる」
「経済界のドンまで孫にしたのか」
「今日の配信、MBAの講義よりためになった」
配信終了後
咲良は、静かになった部屋で大門寺氏から届いた「お礼の特級茶葉」を眺めていました。
「ふふ、覇気のある若者でしたわね。でも、どんなに大きな会社を動かしていても、迷う時は誰にでもあるもの。……世界一への道は、こうして『知恵』で世の中を整えていくことでもあるのかしら」
咲良の評価は、ついに「エンタメ」の枠を飛び出し、政財界からも一目を置かれる**「賢者」**としてのステージへと昇り詰めました。




